精神科病院の入院患者に対して、退院制限、行動制限、隔離が行われることがあります。
精神科病院の退院制限、行動制限、隔離は何を根拠にして、どのように行われるのでしょうか?
今回はその疑問に答えます。
入院形態については、「精神保健福祉法による入院形態-任意入院、措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院」に書いてあります。
それでは、精神科病院の退院制限、行動制限、隔離について見てきましょう。
任意入院者の退院制限
精神保健福祉法には、精神障害者を強制的に入院させて治療する仕組みがあります。措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院です。
患者自ら入院を希望して入院しているときに、その患者が退院したいと言ったらどうなるのでしょうか?
このことについては、精神保健福祉法第21条第2項に書かれています。
第21条第2項
精神保健福祉法
精神科病院の管理者は、自ら入院した精神障害者(以下「任意入院者」という。)から退院の申出があつた場合においては、その者を退院させなければならない。
任意入院した患者が退院を希望した場合、退院させないといけないことが法律で定められています。
しかし、精神保健福祉法は「精神障害者の医療及び保護」が目的なので、患者を退院されることがそれに反することもあるかもしれません。
そのように判断した場合、その患者の退院を制限することについても法律で規定されています。
第21条第3項
精神保健福祉法
前項に規定する場合において、精神科病院の管理者は、指定医による診察の結果、当該任意入院者の医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときは、同項の規定にかかわらず、七十二時間を限り、その者を退院させないことができる。
指定医というのは精神保健指定医のことです。
精神保健指定医が診察して、「医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めた」場合は、その患者を退院させないことができます。ただし、それは72時間という範囲内で、ということになります。
72時間を超えて入院が必要な場合には、他の入院形態に切り替える必要があります。
任意入院患者の退院制限をまとめると次の通りです。
- 精神保健指定医が診察して、医療・保護のため入院継続が必要であると認めた場合
- 退院制限は72時間まで
- 72時間以上入院を継続されるには入院形態を変更する
精神科病院の入院患者の行動制限、隔離
精神科病院は対象疾患の性質上、医療・保護のために行動を制限する必要が出てくることもあります。
主治医が自由に行動制限を決められるのではなく、法律の規定に従って制限を行うことができるようになっています。
行動制限については、精神保健福祉法第36条に書かれています。
第36条
精神保健福祉法
精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
あくまで目的は医療・保護です。
必要な制限を行うことができるのは、精神科病院の管理者となっています。
どのような行動制限ができるかについては法律には書かれていませんが、どのような制限をしてはいけないのかは書かれています。
第36条第2項
精神保健福祉法
精神科病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であつて、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。
信書というのは、総務省によると、「「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と郵便法及び信書便法に規定されています。」となっています。簡単に言えば手紙などということです。
誰かに手紙を送ったり、誰かからの手紙を受け取ったりというのは制限できないと覚えておきましょう。
その他にも行政機関の職員との面会も制限してはいけません。
行動制限は誰でも決めることができるのかというと、そういうわけではありません。
第36条第3項
精神保健福祉法
第一項の規定による行動の制限のうち、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動制限は、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。
行動制限と隔離は、精神保健指定医が必要と認める場合にのみ行うことができます。
隔離は指定医が必要と認める場合だけ行うことができることになっています。ただ、『現任者講習会テキスト2018年版』には次のようなことも書かれています。
自殺企図、自傷行為切迫、他者に対する暴力は著しい迷惑行為、急性精神運動興奮がある患者は隔離の対象となる。12時間を超えない隔離については医師であれば行うことができる。12時間を超える場合は指定医診察が必要である。(p.57)
『公認心理師現任者講習会テキスト2018年版』
隔離については精神保健福祉法ではなく、厚生省告示第129号と130号にその規定があります。
厚生省告示第129号「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十六条第三項の規定に基づき厚生労働大臣が定める行動制限」で、隔離について次のように書かれています。
一 患者の隔離(内側から患者本人の意思によつて出ることができない部屋の中へ一人だけ入室させることにより当該患者を他の患者から遮断する行動の制限をいい、十二時間を超えるものに限る。)
厚生省告示第129号「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十六条第三項の規定に基づき厚生労働大臣が定める行動制限」
12時間を超えると「隔離」と呼ぶようです。厚生省告示第129号には身体拘束についても書かれているので、興味のある人は見ておくといいかもしれません。
12時間を超えなければ指定医以外の意思でも隔離することができます。
それは、厚生省告示第130号「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」に、次のように書かれています。
第三 患者の隔離について
厚生省告示第130号「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」
一 基本的な考え方
(三) 十二時間を超えない隔離については精神保健指定医の判断を要するものではないが、この場合にあついてもその要否の判断は医師によつて行われなければならないものとする。
12時間を超えなければ指定医の判断が必要ではないという記述です。ただし、その判断は医師によって行われなければいけないとなっています。
厚生省告示第130号は精神保健福祉法第37条第1項の規定についてです。
精神保健福祉法第37条には何が書かれているのでしょうか?
第37条
精神保健福祉法
厚生労働大臣は、前条に定めるもののほか、精神科病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。
精神保健福祉法第36条に定めるもの以外の処遇についての基準を厚生労働大臣が定めることができるとされています。
その基準が厚生省告示第130号になります。
厚生省告示第130号には隔離だけでなく、いろいろなものの基準が示されています。隔離についても、制裁や懲罰として行ってはいけないということも決められているので、目を通しておく価値はあると思います。
精神科病院の入院患者の行動制限、隔離をまとめると次用になります。
- 12時間を超えない隔離は医師の判断
- 12時間を超える隔離は精神保健指定医の判断
- 信書の発受、行政職員との面会等は制限できない
まとめ
任意入院の退院制限
- 精神保健指定医が診察して、医療・保護のため入院継続が必要であると認めた場合
- 退院制限は72時間まで
- 72時間以上入院を継続されるには入院形態を変更する
精神科病院の入院患者の行動制限、隔離
- 12時間を超えない隔離は医師の判断
- 12時間を超える隔離は精神保健指定医の判断
- 信書の発受、行政職員との面会等は制限できない
精神保健福祉法における入院形態については、「精神保健福祉法による入院形態-任意入院、措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院」に書いてあります。