人はどのようにして色を知覚しているのでしょうか?
色の知覚(色覚)では、三色説と反対色説が有名です。また、加法混色と減法混色というものも存在しています。
今回は、光の波長と色の関係、加法混色と減法混色、三色説と反対色説と段階説を説明します。
光の波長と色の関係
色の知覚には視覚が関係しています。視覚は光の知覚であるため、まずは光について知る必要があります。
光には波の性質があります。波の頂点から隣の頂点までの長さを波長と呼び、人が知覚できるのはその中の一部であることがわかっています。
『公認心理師必携テキスト』には、人が知覚できる光の波長について次のように書かれています。
人間が知覚できる光の波長範囲はおおむね400~780nmである。(p.145-146)
『公認心理師必携テキスト』
単位はナノメートルで、1ナノメートルは1メートルの1億分の1の長さです。400nmは0.0004mmです。
人が知覚できる400~780nmの波長の光のことを可視光と呼びます。その外側には、赤外線や紫外線と呼ばれる光があります。
赤や青などの色は、光の波長の違いによるものです。『心理学検定基本キーワード改訂版』に例が書かれています。
たとえば、700nm、520nm、480nmの波長を主な成分とする光はそれぞれ、赤、緑、青の色覚を生じさせる。(p.73)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
光の波長と色の関係はこのようになっています。複数の波長の光が組み合わされることで、様々な色を知覚することができます。
光の色と加法混色
特定の波長だけの光は単色光と呼ばれます。
特定の波長の実から構成され、他の波長を含まない光を単色光と呼ぶ。(p.73)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
太陽の光などは、光が届いていることはわかりますが、色として知覚されず、無色の光として感じます。これは太陽光に複数の波長が含まれていることから生じる現象です。
プリズムなどを使って太陽光をう分光(光を分けること)してみると、虹のような七色の光に分けることができます。光は波長によって屈折率が異なるため、そのような現象が起こります。基本的には虹も同じ原理です。
これを逆に考えると、分光された複数の光を合成すれば透明な光になるということです。
複数の種類の有彩光または単色光を合成することにより、光は次第に無彩光に近づく。このような光の混色を加法混色と呼ぶ。(p.73)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
光の色は単色光を合成することによって無彩色、つまり透明になっていきます。これを加法混色と呼びます。
加法混色では、波長の異なる光が足されていることになります。
物の色と減法混色
物の色は光の色とは異なっています。
物の色の知覚も光の知覚ですが、物が反射した光を知覚することによって色覚が生じます。
物には反射する光と吸収する光があり、反射する光だけが目に入り、色として知覚されることになります。
例えば、ある物が青の波長の光を反射し、他の波長の光を吸収するとしたら、その物は「青く」見えるということです。
全ての光を反射した場合は白く見え、全ての光を吸収した場合は黒く見えます。絵の具を混ぜていると黒っぽくなっていくのは、1色混ぜるごとに吸収する波長が増えていくからです。
物質同士の合成は、それぞれが吸収する波長帯を組み合わせる様式で行われるため、絵の具のような物質の合成はその色を次第に黒色に近づける。このような物質の混色を減法混色と呼ぶ。(p.73)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
物を混ぜることによる混色は光の混色と異なり、様々な色を混ぜることによって黒色に近づいていきます。これを「減法混色」と呼びます。
減法混色では、目に届く波長が減っていくことになります(物が吸収する波長が増えていきます)。
色の知覚
色の知覚については、三色説と反対色説が有名です。
三色説と反対色説は対立する理論と考えることができますが、現在ではその2つを統合した段階説が受け入れられています。
三色説
三色説は、ヤング(Young, T.)の色覚に関する基にして、ヘルムホルツ(Helmholtz, Hermann Ludwig Ferdinand von)が体系化した理論のことです。
『心理学検定基本キーワード改訂版』では、三色説は次のように説明されています。
三色説とは、赤、緑、青の光に選択的に反応する物質が網膜上に存在し、この3種の反応の組合せによってあらゆる色の知覚が実現されるとする仮説である。(p.73)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
三色説は、赤、緑、青の波長に反応する受容体が網膜上に存在していて、それらの反応の組み合わせによって色を知覚するという説です。
また、この三色説は単なる仮説ではなく、根拠となるものも存在しています。『心理学検定基本キーワード改訂版』には次のように書かれています。
網膜上では、それぞれ560nm、530nm、420nmの光に最大の感度を持つ3種類の錐体の存在が確認されており、三色説を支持する証拠となっている。(p.73)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
錐体は視細胞の1種で、錐体細胞と呼ばれることもあります。錐体細胞は明所視に関係しています。錐体細胞は網膜の中心部分に多く存在し、色覚に関係しています。
その錐体細胞には3種類あり、それぞれ最大に反応する波長が異なっています。これが三色説の根拠となっています。
反対色説
反対色説はヘリング(Hering, Ewald Konstantin)が提唱した仮説です。有斐閣の『心理学辞典』では次のように説明されています。
ヘリングは、人間に色覚は対をなす6個の基本的な感覚、すなわち黒-白、青-黄、緑-赤の3対の過程から成立していると考えた。網膜には、それぞれの基になる黒-白物質、青-黄物質、緑-赤物質の3種類の視物質が存在し、その網膜視物質が光化学反応を起こすことによって前記6個の感覚が生じると仮定したのである。(p.706)
『心理学辞典』有斐閣
反対色説は、3対の反対色に反応する物質が網膜にあり、それが反応することによって色を知覚するという説です。
色残像(補色残像)などの現象は反対色説によって説明することができ、それが反対色説の根拠の1つとなっています。
色残像(補色残像)については、『心理学検定基本キーワード改訂版』に次のように書かれています。
特定の色を長時間観察した後、無色の対象をながめると、観察した色の補色(赤に対する緑、青に対する黄)が比較的持続して知覚される。この現象を色残像または補色残像と呼ぶ。(p.73)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
この現象を日常生活で経験したことのある人もいると思います。経験がない人は、特定の色を数分間見続け、他の場所(白いところだとわかりやすい)を見てみると、色残像(補色残像)がどのようなものか体験することができます。
この現象は三色説では説明できず、反対色説による説明が必要になります。
三色説と反対色説の関係と段階説
三色説と反対色説にはそれぞれ根拠があり、どちらが正しいというものではありません。色覚理論では、三色説と反対色説を含む段階説が受け入れられています。
段階説は有斐閣の『心理学辞典』で次のように説明されています。
元来対立する色覚理論と考えられていた三色説と反対色説を統合したもので、三色説的処理過程が反対色説的処理過程に出力を送るという形での処理過程の階層性がこの理論の特徴である。これまでに、網膜の錐体の段階では三色説的な処理がなされること、そして、それ以降、遅くとも網膜神経節細胞の段階では反対色説的な処理がなされることが実証されており、現在提案されているほぼすべての色覚理論は段階説とよぶことができる。(p.567)
『心理学辞典』有斐閣
段階説では、三色説で説明される処理が行われ、その次に反対色説で説明される処理が行われるとされています。
また、三色説も反対色説も生理学的なメカニズムが実証されています。
三色説は網膜上の錐体細胞での処理、反対色説はそれ以降(遅くとも網膜神経節細胞の段階)での処理がその根拠となっています。
明るさと色の知覚(プルキンエ現象)
周囲の明るさによって、明るく知覚される色が異なっていることがわかっています。その現象を「プルキンエ現象」と呼びます。
視細胞には明所視を担っている錐体細胞、暗所視を担っている桿体細胞があります。錐体細胞と桿体細胞では、感度が最大の光の波長が異なっているため、明るい場所と暗い場所で明るく知覚される色が変わります。
明るい場所では黄色や赤、暗い場所では青や緑が明るく知覚されます。この現象が「プルキンエ現象」です。
プルキンエ現象を含む明るさの知覚については「明るさとコントラストの知覚-プルキンエ現象、明順応・暗順応、明るさの対比効果、マッハ現象」に書いてあります。
まとめ
色の知覚について、光の波長と色の関係、加法混色と減法混色、三色説と反対色説と段階説を取り上げて説明してきました。
それらをまとめると次のようになります。
色の知覚で重要な視細胞については、「視細胞の錐体細胞・桿体細胞とその覚え方」に書いてあります。