国際障害分類(ICIDH)と国際生活機能分類(ICF)

WHO(世界保健機関)は1980年に国際障害分類(ICIDH)、2001年に国際生活機能分類(ICF)を発表しています。

国際障害分類と国際生活機能分類とはどういうものなのでしょうか?

今回は、国際障害分類と国際生活機能分類について紹介します。

国際障害分類(ICIDH)

WHOは1980年に国際障害分類(ICIDH:International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)を発表しています。

国際障害分類(ICIDH)は『公認心理師必携テキスト』によると、次のような考え方に基づいたものと説明されています。

疾患・変調が機能障害(impairment)、機能障害が能力障害(disability)を引き起こし、機能障害と能力障害が社会的不利(handicap)の要因になるという考え方(p.282)

『公認心理師必携テキスト』

疾患・失調はわかりやすいものですが、機能障害、能力障害、社会的不利がいまいちわからないという人もいるかもしれません。

それについては、『公認心理師エッセンシャルズ』(p.26)にわかりやすく書かれています。

それをまとめると、次のようになります。『公認心理師エッセンシャルズ』には「機能障害」ではなく、「機能低下」と書かれています。

  • 機能障害:病気やけがによる一次的な生物学的障害
  • 能力低下:けがによって歩けないといった個人レベルの障害
  • 社会的不利:けがによって就職できないといった社会レベルの障害

『公認心理師エッセンシャルズ』

上記の例を使うと、ICIDHの考え方は次のようになります。

  • 病気やけが(疾患・変調)によって
  • 下肢の筋力低下が起こり(機能障害)
  • それによって歩行が困難になり(能力低下)
  • 就職できない(社会的不利)

国際生活機能分類(ICF)

WHOは2001年に国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, disability and health)を発表しています。

これは、国際障害分類(ICIDH)を「さまざまな地域や健康問題に適用することができるように改定」(『公認心理師必携テキスト』p.283)したものです。

『公認心理師必携テキスト』には、ICFについて次のように書かれています。

ICFでは心身機能・身体構造、活動、参加のいずれかに問題を抱える状態(例:機能障害・構造障害、活動制限、参加制約)を障害ととらえる。そして新たに環境因子、個人因子も障害に影響するとした。

『公認心理師必携テキスト』

ICFでは心身の機能や構造だけでなく、活動や参加も含めて、それらに問題を抱える状態を障害としています。その上で、環境因子、個人因子という要素を入れ、それらが障害に影響を与えているという考え方になっています。

「いずれかに問題を抱える状態」が障害とされているため、ICFに従うと、どの領域の問題を抱えているかを確認することが重要になると考えられます。

単に身体的・精神的な障害があるだけではなく、それによって活動や参加に制限・制約がある状態も問題であるため、合理的配慮などの視点と関連させて理解するといいでしょう。

『精神保健福祉士国家試験過去問解説集2019』では、次のように健康状態について説明されています。

ICFでは、人間の健康状態は「心身機能・身体構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」のそれぞれが相互に影響しあっていると考える。(p.17)

『精神保健福祉士国家試験過去問解説集2019』

人間の県境状態は「心身機能・身体構造」、「活動」、「参加」、「環境因子」、「個人因子」が相互に影響を与えあっているという考え方です。

それぞれが独立しているものではなく、相互作用を前提としているというのがICFの特徴の1つ言えるでしょう。

さらに『精神保健福祉士国家試験過去問解説集2019』には次のような記述もあります。

国際障害分類(ICIDH)では、障害を疾病や社会的不利などといったマイナス面からとらえていたのに対し、ICFでは生活機能というプラスの側面に視点を転換し、さらに環境因子を加えたところに特徴がある。(p.17)

『精神保健福祉士国家試験過去問解説集2019』

国際生活機能分類(ICF)はプラスの側面を評価するところ、環境因子を加えたところに特徴があります。

環境因子という視点は、障害を個人内にあるものとだけ捉える視点から、障害は環境との関係内にも存在するという視点への拡張と言えるかもしれません。

特に発達障害などは、環境調整の重要性が言われているため、環境因子を常に意識した支援が重要になります。他の障害についても同様の視点は重要です。

例えば、視力が低下している児童・生徒がメガネやコンタクトレンズを使用しても、教室の1番後ろの席から黒板の文字が見えないとします。このケースでは、席が1番後ろだと問題を抱えますが、席が前の方だと問題がなくなる可能性があります。

このような視点が国際生活機能分類(ICF)の重要なポイントになるのかもしれません。

公認心理師として活動するためには、ICFの考え方を理解しておく必要があるでしょう。