言語獲得装置(LAD)と言語獲得支援システム(LASS)の違い、覚え方

言語獲得関係する言語獲得装置(LAD)と言語獲得支援システム(LASS)はどのようなものでしょうか?

名前が似ている言語獲得装置と言語獲得支援システムの違いと覚え方について解説します。

言語については言語学者のチョムスキー(Chomsky, N.)が有名です。普遍文法や生成文法などを聞いたことがある人も多いかもしれません。

言語獲得装置を提唱したのがチョムスキーです。

言語獲得支援システムはブルーナー(Bruner, J.)が提唱したものです。

チョムスキーとブルーナーがどのような視点で言語獲得を見ていたのかを知ることで、言語獲得装置と言語獲得支援システムの違いがわかります。

それでは、言語獲得装置と言語獲得支援システムについて詳しく見ていきましょう。

言語獲得装置(Language Acquisition Device:LAD)

言語獲得装置という名前から連想するのは、人には言語を獲得するための装置のようなものが生得的に備わっているというものです。チョムスキーの普遍文法を考えれば、すごく納得できます。

『公認心理師必携テキスト』の説明を引用します。

チョムスキー Chomsky, N.は、人類がもつ言語は多様であるものの、その核となるような普遍文法が生得的に存在し、周囲からの言語入力からスムーズに法則性を整理できる言語獲得装置(LAD:language acquisition device)があると考えた。(p.169)

『公認心理師必携テキスト』

言語獲得装置を理解する前提として、人が生得的に普遍文法を持っているというチョムスキーの考え方を知っておく必要があります。

普遍文法は、有斐閣の『心理学辞典』では次のように説明されています。

文法一般に関する理論を普遍文法(UG)とよぶ。つまり、UGとは、人間の言語の文法として可能なものは何かに関する仮説である。(p.752)

『心理学辞典』有斐閣

なぜ人は言語を獲得できるのかということを考えたとき、その言語の文法のひな型になるような何かを生得的に持っているという発想には説得力があります。

異なる文法を持つ個別の言語があるにも関わらず、その言語圏で育った子どもは自然とその言語を獲得します。その基礎になるものが普遍文法ということです。

普遍文法(UG)と言語獲得装置との関係については、有斐閣の『心理学辞典』に次のように書かれています。

UGは人間の言語の基本設計であり、言語獲得装置(LAD)の中心をなす。(p.752)

『心理学辞典』有斐閣

言語が言語獲得装置(LAD)に入力され、その中心にある普遍文法によって法則性を整理し、言語を獲得できるというのがチョムスキーの考えです。

チョムスキーは人間の内部にある機能によって言語を獲得することができると考えたところに特徴があると考えられます。

言語獲得支援システム(Language Acquisition Support System:LASS)

言語獲得支援システムはブルーナー(Bruner, J.)が提唱したものです。このブルーナーは共同注意のブルーナーです。

言語獲得支援システムも『公認心理師必携テキスト』から引用します。

ブルーナー Bruner, J.は大人が子どもと行う言語コミュニケーションは大人どうしのそれとは質的に異なり、言語獲得を容易にする特徴があるとして、このかかわり方を言語獲得支援システム(LASS:language acquisition support system)としてとらえた。(p.169)

『公認心理師必携テキスト』

チョムスキーとは違って、ブルーナーは個人内ではなく、個人の外側に言語獲得を支援するシステムがあると考えました。

それが大人が行う子どもとの言語コミュニケーションにあり、それを言語獲得支援システムと呼ばれるものです。

ブルーナーは教育心理学者なので、子どもの言語獲得を促進する要因を子どもの外側に想定したというのは納得できます。

言語獲得支援システムという発想は、言語獲得を促進する外的な要因が存在しているということを前提としています。そのシステムがどのように機能するかによって言語獲得が影響を受けると考えられます。

言語獲得装置(LAD)と言語獲得支援システム(LASS)の違い

言語獲得装置(LAD)と言語獲得支援システム(LASS)の違いはどのようなものでしょうか?

最大の違いは、言語獲得に関する「何か」が個人内にあるか、環境にあるか、という視点だと考えられます。

  • 言語獲得装置:個人内
  • 言語獲得支援システム:環境

チョムスキーの普遍文法に関しては批判もありますが、言語獲得に関わる「何か」が人の中に存在していることは間違いないように思えます。

ただ、このような発想は、言語獲得の支援を行っている側から見ると、あまり役に立たないものと言えます。

チョムスキーは言語学者であるため、言語の本質を探究していくという意味で、言語獲得装置や普遍文法という考えに到達したのかもしれません。

一方ブルーナーは教育心理学者であるため、「教育」という視点から言語獲得を見ていたことが想像できます。

子どもの言語獲得を促進するために何が重要なのかを知ることができれば、言語獲得に遅れのある子どもなどに対して支援を行うことができます。そこで重要となるが、言語獲得に影響を与える環境ということです。

言語獲得を支援するようなシステムを環境側に想定することで、そのシステムを操作することによって言語獲得に影響を与えられることになります。

言語獲得装置(LAD)と言語獲得支援システム(LASS)の覚え方

言語獲得装置の発想は、言語獲得に関する「装置」が個人内に備わっているというものです。「装置」なので、言語を獲得する側にその装置があることが想像できます。

言語について探求する言語学者のチョムスキーがその「仕組み」を想定したことは当然と言えるでしょう。

言語獲得支援システムの発想は、言語獲得を「支援するシステム」が環境側にあるというものです。「支援するシステム」は言語を獲得する側ではなく、その人を取り巻く環境側にあることが想像できます。

教育心理学者であるブルーナーが言語獲得の促進を考えたとしても不思議ではなく、そのために環境要因が重要になります。

これらのことをまとめると次のようになります。

言語獲得装置(LAD)

  • 言語獲得するための装置が個人内にある
  • 言語学者のチョムスキーが言語を探求する中で到達した考え方

言語獲得支援システム(LASS)

  • 言語獲得を支援するシステムが環境側にある
  • 教育心理学者のブルーナーが言語獲得を促進するために見出したと思われる考え方