心神喪失者等医療観察法は、保健・医療分野と犯罪・司法分野で重要となる法律の1つです。
保健・医療分野と犯罪・司法分野以外の公認心理師であっても知っておく必要があります。
心神喪失者等医療観察法の正式名称は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」です。
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人が対象となる法律で、「医療観察法」と呼ばれることもあります。
今回は、心神喪失者等医療観察法の目的、対象行為、対象者について説明します。
心神喪失者等医療観察法の目的
心神喪失者等医療観察法の目的は第1条に書かれています。
第1条
心神喪失者等医療観察法
この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする。
第2項
この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。
心神喪失者等医療観察法の対象となるのは、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者です。
そのような人を単に罰するのではなく、適切な医療、必要な観察・指導を提供し、再発防止と社会復帰ができるようにすることを目的とした法律となっています。
また、心神喪失者等医療観察法による処遇に携わる者は、法律の目的を踏まえて、対象者が円滑に社会復帰できるように努めなければならないとされています。
心神喪失者等医療観察法の対象となる行為
心神喪失者等医療観察法の対象となる行為は、刑法に規定されているものです。第2条にその規定があります。
第2条
心神喪失者等医療観察法
この法律において「対象行為」とは、次の各号に掲げるいずれかの行為に当たるものをいう。
第1号
刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八条から第百十条まで又は第百十二条に規定する行為
第2号
刑法第百七十六条から第百八十条までに規定する行為
第3号
刑法第百九十九条、第二百二条又は第二百三条に規定する行為
第4号
刑法第二百四条に規定する行為
第5号
刑法第二百三十六条、第二百三十八条又は第二百四十三条(第二百三十六条又は第二百三十八条に係るものに限る。)に規定する行為
第2条に書かれている刑法の規定から、対象行為をまとめると次のようになります。
- 現住建造物等放火(刑法第108条)
- 非現住建造物等放火(刑法第109条)
- 建造物等以外放火(刑法110条)
- 現住建造物等放火、非現住建造物等放火の未遂罪(刑法第102条)
- 強制わいせつ(刑法第176条)
- 強制性行等(刑法第177条)
- 準強制わいせつ及び準強制性行等(刑法第178条)
- 監護者わいせつ及び監護者性行等(刑法第179条)
- 強制わいせつ、強制性行等、準強制わいせつ及び準強制性行等、監護者わいせつ及び監護者性行等の未遂罪(刑法第180条)
- 殺人(刑法第199条)
- 自殺関与及び同意殺人(刑法第202条)
- 殺人、自殺関与及び同意殺人の未遂罪(刑法第203条)
- 傷害(刑法第204条)
- 強盗(刑法236条)
- 事後強盗(刑法238条)
- 強盗、事後強盗の未遂罪(刑法243条)
心神喪失者等医療観察法の対象者
心神喪失者等医療観察法の対象者は第2条第2項に書かれています。
第2条第2項
心神喪失者等医療観察法
この法律において「対象者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
第1号
公訴を提起しない処分において、対象行為を行ったこと及び刑法第三十九条第一項に規定する者(以下「心神喪失者」という。)又は同条第二項に規定する者(以下「心神耗弱者」という。)であることが認められた者
第2号
対象行為について、刑法第三十九条第一項の規定により無罪の確定裁判を受けた者又は同条第二項の規定により刑を減軽する旨の確定裁判(懲役又は禁錮の刑を言い渡し、その刑の全部の執行猶予の言渡しをしない裁判であって、執行すべき刑期があるものを除く。)を受けた者
心神喪失者等医療観察法の対象者となるのは次の2つのうちどちらかに当てはまる場合です。
- 公訴を提起しない処分(不起訴処分)で、刑法第39条第1項・第2項に規定する者と認められた場合
- 刑法第39条第1項・第2項の規定によって無罪・減刑の判決を受けた場合
刑法第39条第1項と第2項は次のような規定です。
刑法第39条
刑法
心神喪失者の行為は、罰しない。
第2項
心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する。
※「耗弱」は「こうじゃく」と読む
この刑法の規定に基づいて、不起訴あるいは無罪・減刑の判決を受けた場合、心神喪失者等医療観察法の対象者となります。
まとめ
- 心神喪失者等医療観察法の目的は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に適切な医療、必要な観察・指導を提供し、再発防止・社会復帰を促すこと
- 対象行為は、放火、強制わいせつ、強制性行、殺人、傷害、強盗など
- 対象者は、心神喪失・心神耗弱状態で不起訴処分あるいは無罪・減刑の判決を受けた者