身体障害者手帳などの「手帳」と名の付くものがいくつかあります。その対象者、根拠法、交付はどうなっているのでしょうか?
今回は4種類の手帳についてまとめます。
- 身体障害者手帳
- 療育手帳
- 精神障害者保健福祉手帳
- 母子健康手帳
それでは、それぞれについて見ていきましょう。
身体障害者手帳
身体障害者手帳の根拠法、対象者、交付はどうなっているのでしょうか?
根拠となる法律:身体障害者福祉法
身体障害者手帳については、身体障害者福祉法第15条に書かれています。
第15条
身体障害者福祉法
身体に障害のある者は、都道府県知事の定める医師の診断書を添えて、その居住地(居住地を有しないときは、その現在地)の都道府県知事に身体障害者手帳の交付を申請することができる。ただし、本人が十五歳に満たないときは、その保護者(親権を行う者及び後見人をいう。ただし、児童福祉法第二十七条第一項第三号又は第二十七条の二の規定により里親に委託され、又は児童福祉施設に入所した児童については、当該里親又は児童福祉施設の長とする。以下同じ。)が代わつて申請するものとする。
身体に障害のある人は、医師の診断書と添えて身体障害者手帳の交付を申請することができます。本人が15歳未満の場合は保護者が代わりに申請するという規定もあります。
身体障害者手帳の対象者については、身体障害者手帳の交付とともに身体障害者福祉法第15条第4項に書かれています。
第15条第4項
身体障害者福祉法
都道府県知事は、第一項の申請に基づいて審査し、その障害が別表に掲げるものに該当すると認めたときは、申請者に身体障害者手帳を交付しなければならない。
身体障害者手帳の対象となる障害は、「別表」に書かれています。別表(第4条、第15条、第16条関係)を抜粋して引用します。
身体障害者福祉法
- 次に掲げる視覚障害で、永続するもの
- 次に掲げる張力又は平衡機能の障害で、永続するもの
- 次に掲げる音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害
- 次に掲げる肢体不自由
- 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの
厚生労働省の「身体障害者手帳制度の概要」(PDFファイル)には次のように書かれています。
身体障害者手帳制度の概要
- 視覚障害
- 聴覚又は平衡機能の障害
- 音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害
- 肢体不自由
- 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害
- ぼうこう又は直腸の機能の障害
- ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害
- 肝臓の機能の障害
このような障害が身体障害者手帳の対象となります。
さらに、障害の程度によって等級が決められることになっています。1級から7級まであって、1級が最も重度となっています。これについても、「身体障害者手帳制度の概要」に書かれています。
障害の程度
身体障害者手帳制度の概要
法別表に該当するかどうかの詳細については、身体障害者福祉法施行規則別表第5号「身体障害者程度等級表」において、障害の種類別に重度の側から1級から6級の等級が定められている。
(7級の障害は、単独では交付対象とはならないが、7級の障害が2つ以上重複する場合又は7級の障害が6級以上の障害と重複する場合は、対象となる。)
このような身体障害者手帳の申請と交付は、上記の身体障害者福祉法第15条と第15条第4項で規定される通り、都道府県知事に申請し、都道府県知事が交付するとなっています。
身体障害者手帳をまとめると次の通りです。
- 根拠法は身体障害者福祉法
- 対象者は視覚障害、張力・平衡機能障害、音声機能・言語機能・咀嚼機能障害、肢体不自由、心臓・腎臓・呼吸器機能障害のうち法令で定められたもの
- 都道府県知事に申請し、都道府県知事が交付
療育手帳
療育手帳の根拠法、対象者、交付はどうなっているのでしょうか?
根拠となる法律:なし
療育手帳は根拠となる法律がありませんが、厚生省発児第156号「療育手帳制度について」というものが根拠となっています。
そこには療育手帳について、次のように書かれています。
第1 目的
この制度は、知的障害児(者)に対して一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受けやすくするため、知的障害児(者)に手帳を交付し、もって知的障害児(者)のふくしの増進に資することを目的とする。第2 交付対象者
手帳は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された者(以下「知的障害者」という。)に対して交付する。第3 実施主体
この制度は、都道府県知事(指定都市にあっては、市長とする。以下同じ。)が市町村その他の関係機関の協力を得て実施する。第4 手帳の名称及び記載事項
1 手帳の名称は「療育手帳」とする。(以下略)
療育手帳制度について
療育手帳は児童相談所・知的障害者更生相談所が知的障害と判定した人が交付対象となっています。
制度自体は、都道府県知事が市町村などの関係機関の協力を得て実施するものとされています。
療育手帳の申請と交付についても、「療育手帳制度について」に書かれています。
第5 手帳の交付手続
1 申請
手帳の交付申請は、知的障害者又はその保護者が、知的障害者の居住地の管轄する福祉事務所の長(福祉事務所を設置しない町村にあっては、当該町村の長及び管轄の福祉事務所の長とする。第7において同じ。)を経由して都道府県知事に対して行うものとする。2 交付の決定及び交付
療育手帳制度について
都道府県知事は、児童相談所又は知的障害者更生相談所における判定結果に基づき手帳の交付を決定し、交付の申請の際の経由機関を経由して申請者にこれを交付する。
療育手帳の申請は最終的には都道府県知事ですが、福祉事務所の長を経由しての申請となっています。
交付についても都道府県知事ですが、申請の際に経由した機関を経由して交付するという流れです。
障害の程度については、児発第725号「療育手帳制度の実施について」に書かれています。
第3 障害の程度の判定
1 障害の程度は、次の基準により重度とその他に区分するものとし、療育手帳の障害の程度の記載欄には、重度の場合は「A」と、その他の場合は「B」と表示するものとする。
Aが重度で、Bがその他の場合です。
どのような場合が重度になるかは18歳未満と18歳以上に分けて基準が書かれています。
18歳未満は次のように書かれています。
平成8年20日障発0820第3号(「重度障害児支援加算費について」)の2対象となる措置児童等についての(1)又は(2)に該当する程度の障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの
療育手帳制度の実施について
平成8年20日障発0820第3号(「重度障害児支援加算費について」)(PDFファイル)にはどのように書かれているでしょうか?
(1) 知能指数がおおむね35以下の児童であって、次のいずれかに該当するもの。
平成8年20日障発0820第3号(「重度障害児支援加算費について」)
ア 食事、洗面、排泄、衣服の着脱等の日常生活動作の介助を必要とし、社会生活への適応が著しく困難であること。
イ 頻繁なてんかん様発作又は失禁、食べられないものを口に入れる、興奮、寡動その他の問題行動を有し、監護を必要とするものであること。
(2) 盲児(強度の弱視を含む。以下同じ。)若しくはろうあ児(強度の難聴を含む。以下同じ。)又は肢体不自由児であって、知能指数がおおむね50以下と判定されたもの。
対象となる要件は2つに分けることができます。
- 知能指数が概ね35以下で、社会生活への適応が著しく困難、あるいは監護をが必要
- 盲児・ろうあ児・肢体不自由児で、知能指数が概ね50以下
18歳以上の場合はどうなっているのでしょうか?
昭和43年7月3日児発第422号児童家庭局長通知(「重度知的障害者収容棟の設備及び運営について」)の1の(1)に該当する程度の障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの
療育手帳制度の実施について
昭和43年7月3日児発第422号児童家庭局長通知(「重度知的障害者収容棟の設備及び運営について」)を確認してみましょう。
(1)対象者
昭和43年7月3日児発第422号児童家庭局長通知(「重度知的障害者収容棟の設備及び運営について」)
対象者は、知的障害者更生施設に入所することが適当な者のうち、標準化された知能検査によって測定された知能指数がおおむね三五以下(肢体不自由、盲、ろうあ等の障害を有する者については五〇以下)と判定された知的障害者であって、次のいずれかに該当するもの(以下「重度者」という。)であること。
ア 日常生活における基本的な動作(食事、排泄、入浴、洗面、着脱衣等)が困難であって、個別的指導及び介助を必要とする者
イ 失禁、異食、興奮、多寡動その他の問題行為を有し、常時注意と指導を必要とする者
18歳以上であっても基本的には18歳未満と同じような条件となっています。
- 知能指数が概ね35以下の知的障害者で、日常生活において個別的指導・介助が必要、あるいは常時注意と指導が必要
- 知能指数が概ね50以下の肢体不自由・盲・ろうあ等の知的障害者で、日常生活において個別的指導・介助が必要、あるいは常時注意と指導が必要
療育手帳をまとめると次のようになります。
- 根拠法なし
- 厚生省発児第156号「療育手帳制度について」が根拠
- 対象要件は、知能指数概ね35以下で日常生活が困難あるいは監護・注意が必要(肢体不自由・盲・ろうあ等は知能指数概ね50以下)
- 福祉事務所の長を経由して都道府県知事に申請し、申請時に経由した機関を経由して都道府県知事が交付
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳の根拠法、対象者、交付はどうなっているのでしょうか?
根拠となる法律:精神保健福祉法
精神保健福祉手帳は、精神保健福祉法にその規定があります。
第45条
精神保健福祉法
精神障害者(知的障害者を除く。以下この章及び次章において同じ。)は、厚生労働省令で定める書類を添えて、その居住地(居住地を有しないときは、その現在地)の都道府県知事に精神障害者保健福祉手帳の交付を申請することができる。
精神障害者保健福祉手帳は都道府県知事に申請します。重要なのは「知的障害者を除く」という部分です。
知的障害者は精神障害者保健福祉手帳の対象ではありません。
精神保健福祉法における精神障害者は第5条にあります。
第5条
精神保健福祉法
この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。
精神障害者保健福祉手帳に関しては、上記から知的障害者が除かれます。
厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス総合サイト」によると、対象となるのは日常生活・社会生活に制約のあるすべての精神疾患だそうです。例として次のようなものが挙げられています。
みんなのメンタルヘルス総合サイト
- 統合失調症
- うつ病、そううつ病などの気分障害
- てんかん
- 薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症
- 高次脳機能障害
- 発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)
- その他の精神疾患(ストレス関連障害等)
精神保健福祉法には、交付について次のように書かれています。
第45条第2項
精神保健福祉法
都道府県知事は、前項の申請に基づいて審査し、申請者が政令で定める精神障害の状態にあると認めたときは、申請者に精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならない。
精神障害者保健福祉手帳は都道府県知事が交付します。
精神障害者保健福祉手帳にも等級があり、こちらは1級から3級となっています。1級の方が重度となっています。
精神障害者保健福祉手帳をまとめると次のようになります。
- 根拠法は精神保健福祉法
- 対象は日常生活・社会生活に制約のあるすべての精神疾患(知的障害除く)
- 都道府県知事に申請し、都道府県知事が交付
母子健康手帳
母子健康手帳の根拠法、対象者、交付はどうなっているのでしょうか?
根拠となる法律:母子保健法
母子健康手帳は母子保健法第16条に規定があります。
第16条
母子保健法
市町村は、妊婦の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない。
母子健康手帳の交付は市町村となっています。身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳と異なっているところがポイントです。
第16条には市町村が母子健康手帳を交付するとありますが、その前の「妊婦の届出をした者」についてはどうなっているのでしょうか?
それは母子保健法第15条に書かれています。
第15条
母子保健法
妊娠した者は、厚生労働省令で定める事項につき、速やかに、市町村長に妊娠の届出をするようにしなければならない。
母子保健法では、妊娠した場合には速やかに市町村長に届出をしなければならないとなっています。
この届出をした人に対して、市町村は母子健康手帳を交付しなければなりません。
母子健康手帳は申請するものではなく、妊娠の届出をすると自動的に交付されるということです。
また、母子保健法第16条第2項には次のような規定もあります。
第16条第2項
母子保健法
妊産婦は、医師、歯科医師、助産師又は保健師について、健康診査又は保健指導を受けたときは、その都度、母子健康手帳に必要な事項を記載を受けなければならない。乳児又は幼児の健康診査又は保健指導を受けた当該乳児又は幼児の保護者についても、同様とする。
妊産婦は、健康診査・保健指導を受けた場合、母子健康手帳に必要な事項を記載してもらわないといけないことになっています。
母子健康手帳についてまとめると次のようになります。
- 根拠法は母子保健法
- 妊娠した者は市町村長に届出義務
- 届出を受け、市町村が母子健康手帳を交付
まとめ
身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、母子手帳の申請と交付は次の通りです。
申請
- 都道府県知事に申請:身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳
- 福祉事務所の長を経由して都道府県知事に申請:療育手帳
- 市町村長に届出:母子手帳
交付
- 都道府県知事が交付:身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳
- 経由機関を経由して都道府県知事が交付:療育手帳
- 市町村が交付:母子健康手帳
それぞれの手帳でまとめると次のようになります。
身体障害者手帳
- 根拠法は身体障害者福祉法
- 対象者は視覚障害、張力・平衡機能障害、音声機能・言語機能・咀嚼機能障害、肢体不自由、心臓・腎臓・呼吸器機能障害のうち法令で定められたもの
- 都道府県知事に申請し、都道府県知事が交付
療育手帳
- 根拠法なし
- 厚生省発児第156号「療育手帳制度について」が根拠
- 対象要件は、知能指数概ね35以下で日常生活が困難あるいは監護・注意が必要(肢体不自由・盲・ろうあ等は知能指数概ね50以下)
- 福祉事務所の長を経由して都道府県知事に申請し、申請時に経由した機関を経由して都道府県知事が交付
精神障害者保健福祉手帳
- 根拠法は精神保健福祉法
- 対象は日常生活・社会生活に制約のあるすべての精神疾患(知的障害除く)
- 都道府県知事に申請し、都道府県知事が交付
母子健康手帳
- 根拠法は母子保健法
- 妊娠した者は市町村長に届出義務
- 届出を受け、市町村が母子健康手帳を交付