精神保健福祉法における入院形態は、精神科医療において重要なものであるため、その条件等をしっかりと覚えておく必要があります。
精神保健福祉法による入院形態には、任意入院、措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院があります。
保健・医療分野で働いた経験がない人にとっては混乱しやすいところだと思いますが、任意入院以外は強制的な入院形態であり、それは人権を侵害するものであることを念頭に置くことで、覚えやすいものになります。
では、精神保健福祉法における入院形態を見ていきましょう。
精神保健福祉法における入院形態
『公認心理師エッシェンシャルズ』によると、精神保健法における入院形態は、任意入院、措置入院、医療保護入院、応急入院の4種類。
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』には、医療保護入院、応急入院、措置入院、緊急措置入院について書かれています。任意入院については、「任意入院患者の退院制限」の項目の中に出てきます。
緊急措置入院についての記述の有無の違いがあるので、『公認心理師現任者講習会テキスト2018年版』を見てみると、法律を引用して説明してありました。そこには、医療保護入院、応急入院、措置入院、緊急措置入院、任意入院が書かれています。ということは、『公認心理師エッシェンシャルズ』に緊急措置入院が抜けているということになります。
任意入院
任意入院は精神保健福祉法第20条にその規定があります。
第20条
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。
任意入院の定義としては、精神保健福祉法第21条第2項に書かれています。
第21条第2項
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
精神科病院の管理者は、自ら入院した精神障害者(以下「任意入院患者」という。)から退院の申出があつた場合においては、その者を退院させなければならない。
この規定からもわかるように、任意入院は患者自らが希望した入院ということになります。そして、退院についても自由が認められています。
措置入院
措置入院は精神保健福祉法第29条で規定された入院形態です。第29条には「都道府県知事による入院措置」という項目が付けられていて、その第29条を含む第2節は「指定医の診察及び措置入院」となっています。
第29条
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
都道府県知事の措置による入院なので、「措置入院」と呼ばれているということだと思います。
この入院形態は、「精神障害者」であり、「自傷他害のおそれがある場合」に限定されたものです。
第27条の規定による診察については、精神保健福祉法に次のように書かれています。
第27条
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
都道府県知事は、第二十二条から前条までの規定による申請、通報又は届出のあつた者について調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察させなければならない。
第22条から第26までの規定による申請、通報、届出をまとめると次のようになっています。
- 第22条:診察及び保護の申請(誰でも都道府県知事に申請できる)
- 第23条:警察官の通報
- 第24条:検察官の通報
- 第25条:保護観察所の長の通報
- 第26条:矯正施設の長の通報
- 第26条の2:精神科病院の管理者の届出
- 第26条の3:心神喪失等の状態で重大な他害行為を行つた者にに係る通報
措置入院は都道府県知事の権限による入院形態であるため、安易に行えないような規定となっています。それは2名以上の指定医が診察して、入院が必要であるという判断が一致するという条件です。
これは精神保健福祉法第29条第2項に書かれています。
第29条第2項
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるためには、その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
最も強制力の強い入院形態である措置入院は、入院に必要性についてダブルチェックを行っているということです。
緊急措置入院
緊急措置入院は精神保健福祉法第29条の2で規定された入院形態です。法律上は「緊急措置入院」という名称は使われていません。
第29条の2
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
都道府県知事は、前条第一項の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、第二十七条、第二十八条及び前条の規定による手続きを採ることができない場合において、その指定する指定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第一項に規定する精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
緊急のときに指定医が2名以上見つからないことを想定した規定と言えるかもしれません。
ただし、緊急措置入院はあくまで緊急のものであるため、入院期間の制限があります。それは第29条の2第3項に書かれています。
第29条の2第3項
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
第一項の規定による入院の期間は、七十二時間を超えることができない。
緊急措置入院の入院期間は72時間に制限されています。72時間を超えて入院を継続する必要がある場合は、他の入院形態に変更する必要があります。
医療保護入院
医療保護入院は精神保健福祉法第33条で規定された入院形態です。
第33条
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。
第1号
指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院が必要である者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
第2号
第三十四条第一項の規定により移送された者
医療保護入院には「自傷他害のおそれ」の規定はありません。そして、入院させるのは「精神科病院の管理者」となっています。
第20条の規定による入院は任意入院のことです。
第34条第一項の規定は次のようなものです。
第34条
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
都道府県知事は、その指定する指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたものにつき、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を第三十三条第一項の規定による入院をさせるため第三十三条の七第一項に規定する精神科病院に移送することができる。
第34条は医療保護入院のための移送について書かれています。こちらも家族等の同意が必要ですが、移送は「都道府県知事」によるものとなっています。
医療保護入院で重要となる「家族等」については、第33条第2項に書かれています。
第33条第2項
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
前項の「家族等」とは、当該精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者を除く。
第1号
行方の知れない者
第2号
当該精神障害者に対して訴訟をしている者、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
第3号
家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
第4号
成年被後見人又は被保佐人
第5号
未成年者
「家族等」は、配偶者、親権者、扶養義務者、後見人、保佐人のことを指します。ただし、除外規定もあるので、合わせて覚えておくといいと思います。
家族等がいない場合の医療保護入院については、第33条第3項に規定があります。
第33条第3項
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
精神科病院の管理者は、第一項第一号に掲げる者について、その家族等(前項に規定する家族等をいう。以下同じ。)がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合において、その者の居住地(居住地がないか、又は明らかでないときは、その者の現在地。第四十五条第一項を除き、以下同じ。)を管轄する市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。第三十四条第二項の規定により移送された者について、その者の居住地を管轄する市町村長の同意があるときも、同様とする。
家族等がいない場合は、居住地の市町村長の同意があれば医療保護入院が可能となっています。居住地がなかったり、不明な場合は、現在地となっています。
応急入院
応急入院は精神保健福祉法第33条の7で規定された入院形態です。
第33条の7
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
厚生労働大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神科病院の管理者は、医療及び保護の依頼があつた者について、急速を要し、その家族等の同意を得ることができない場合において、その者が、次に該当する者であるときは、本人の同意がなくても、七十二時間を限り、その者を入院させることができる。
第1号
指定医の診察の結果、精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
第2号
第三十四条第三項の規定により移送された者
家族等がいないわけではなく、家族等の同意を得ることができない場合の入院形態が応急入院です。指定医が診察して、入院が必要であると判断した場合に適用されます。
応急入院にも入院期間の制限があり、72時間となっています。それを超える場合は、他の入院形態に切り替える必要があります。
応急入院は「都道府県知事が指定する精神科病院の管理者」となっています。
まとめ
精神保健福祉法による入院形態をまとめると、次のようになります。
任意入院
- 患者自らの希望による入院
- 退院も自由
措置入院
- 都道府県知事による入院措置
- 指定医2名以上の診察で入院が必要という判断が一致
- 自傷他害のおそれがある
緊急措置入院
- 都道府県知事による入院措置
- 指定医1名の診察で入院が必要という判断
- 自傷他害のおそれがある
- 72時間以内
医療保護入院
- 精神科病院の管理者による入院形態
- 指定医1名の診察で入院が必要という判断
- 家族等の同意が必要
- 家族等がいない場合は、居住地(不明の場合は現在地)の市町村長の同意が必要
応急入院
- 都道府県知事が指定した精神科病院の管理者による入院形態
- 指定医1名の診察で入院が必要という判断
- 家族等の同意が得られない場合
- 72時間以内
精神科病院の退院制限と行動制限については「精神科病院の退院制限と行動制限、隔離」にまとめてあります。