認知症は社会的にも大きな問題となっています。公認心理師としては認知症患者の支援に関わらないとしても、認知症の家族がいるクライエントの支援をすることもあるため、認知症に関する知識は重要なものと言えます。
認知症には、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)と呼ばれる症状もあり、BPSDの知識も重要になります。
また、認知症には下位分類があるため、それぞれの特徴について知っておくことも必要です。
今回はDSM-5とICD-10での分類を見た後に、主要な認知症であるアルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体病、血管性疾患について説明します。それに加えて、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)についても紹介します。
DSM-5とICD-10での認知症の分類
DSM-5はアメリカ精神医学会が出している精神疾患の分類と診断の手引です。ICD-10は世界保健機関(WHO)による国際疾病分類です。
それぞれで認知症はどのように分類されているのでしょうか?
DSM-5での認知症の分類
DSM-5では、認知症は「神経認知障害群」に掲載され、13に分類されています。DSM-IVから変更があるため、DSM-IVで覚えている人はDSM-5を確認する必要があります。
DSM-5にある認知症の代表的なものとして、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体病、血管性疾患などがあります。
ICD-10での認知症の分類
ICD-10では、認知症は「症状性を含む器質性精神障害(F0)」に分類されています。F0の下の分類として、認知症は4つに分けられています。
- アルツハイマー病型認知症(F00)
- 血管性認知症(F01)
- 他に分類されるその他の疾患による認知症(F02)
- 特定不能の認知症(F03)
「他に分類されるその他の疾患による認知症」には6の下位分類があります。
- ピック病型認知症(F02.0)
- クロイツフェルト・ヤコブ病型認知症(F02.1)
- ハンチントン病型認知症(F02.2)
- パーキンソン病型認知症(F02.3)
- ヒト免疫不全ウイルス(HIV)疾患[病]型認知症(F02.4)
- 他に分類されるその他の特定の疾患の認知症(F02.8)
認知症
認知症は一般にも広く知られた名前なので、何となくのイメージは持っていると思います。しかし、正確な知識を持っているか問われたときに、答えに困ってしまう人もいるでしょう。
認知症は上記のDSM-5やICD-10における診断基準に基づいて診断されるため、正確な知識という意味では、診断基準に目を通すことが重要になります。
それと同時に、認知症とはどのようなものなのかという概念を知っておくことも必要になります。『心理学検定基本キーワード改訂版』には次のように書かれています。
認知症とは、器質性精神疾患に分類され、脳の器質的損傷などにより、記憶、見当識、理解・判断力障害、実行機能の障害という中核症状に加え、周辺症状として幻覚・妄想、不安・焦燥、抑うつ、徘徊、物集などさまざまな状態を示す、進行性で慢性の疾患を総称する。(p.192)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
この説明から認知症のいくつかの特徴がわかります。
認知症は器質性精神疾患に分類されています。これはICD-10において、認知症が「症状性を含む器質性精神障害(F0)」に分類されていることを意味しています。DSM-5で「器質性精神障害(疾患)」という分類はありません。
認知症には中核症状と周辺症状の2つに分けられる症状が存在しています。後者の周辺症状は「認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)」のことです。
『心理学検定基本キーワード改訂版』(p.192)に書かれている中核症状は次の通りです。
- 記憶の障害
- 見当識の障害
- 理解・判断力の障害
- 実行機能の障害
どれも認知機能に関する障害であることがわかります。
『心理学検定基本キーワード改訂版』(p.192)には、周辺症状として次のものが挙げられています。
- 幻覚・妄想
- 不安・焦燥
- 抑うつ
- 徘徊
- 物集
最初の3つが心理に関する症状、最後の2つが行動に関する症状と言えます。認知症の周辺症状の心理症状は他の精神疾患でも見られるため、注意が必要です。
周辺症状については、「認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)」として後述します。
また、認知症はに進行性、慢性という特徴もあります。
認知症の特徴をまとめると、次のようになります。
- 器質性精神疾患に分類
- 中核症状と周辺症状がある
- 中核症状は認知機能の障害
- 周辺症状は「認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)」
- 進行性
- 慢性
認知症は上記のような精神疾患ということを理解した上で、主要な認知症であるアルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体病、血管性疾患について見ていきましょう。
アルツハイマー病
認知症の中でアルツハイマー病は最も有名だと思います。認知症について詳しく知らなくても、アルツハイマー病という名前を聞いたことがある人は少なくないでしょう。
アルツハイマー病は『心理学検定基本キーワード改訂版』には「アルツハイマー型認知症」として掲載されています。
初期には記憶障害や時間の見当識障害が目立ち、徐々に複数の認知機能低下をきたし、進行すると構音障害反響言語などの言語面の障害が進み、寝たきりの状態になる。(p.192)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』には、「Alzheimer型認知症」として次のように書かれています。
病初期から見当識障害、近時記憶障害(数分~数日程度に起こった出来事などを忘れてしまう)、視空間認知障害(道に迷う、ものがうまく使えない)が目立つ。(中略)理解・判断力も低下するが、病初期にはあまり目立たないこともある。言語機能は比較的保たれる。(中略)症状は緩徐進行性で、進行とともにさまざまな認知機能障害や行動異常が出現する。(p.107)
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』
アルツハイマー病は認知機能の障害が特徴と言えます。記憶障害や時間の見当識障害がある場合、アルツハイマー病の可能性を考慮する必要があります。
記憶については特に近時記憶に障害が出ます。視空間認知にも障害が出て、道に迷ったりすることが生じるようになります。理解・判断力の低下も見られますが、病初期にはあまり目立たないこともあります。
言語機能については、『精神医療・臨床心理の知識と技法』では比較的保たれるとありますが、『心理学検定基本キーワード改訂版』にはアルツハイマー病が進行すると構音障害反響言語などの言語面の障害が進むと書かれています。
また、アルツハイマー病が進行すると、寝たきり状態になっていきます。医療だけでなく、介護や患者の家族のサポートも視野に入れた支援が重要になると考えられます。
アルツハイマー病をまとめると次のようになります。
- 認知機能の障害が特徴
- 初期には近時記憶障害、時間の見当識障害、視空間認知障害が目立つ
- 理解・判断力が低下するが、初期は目立たないこともある
- 言語機能は比較的保たれるが、進行すると構音障害反響言語などの言語面の障害が生じる
- 寝たきり状態になる
前頭側頭葉変性症
前頭側頭葉変性症はあまり聞きなれないかもしれません。
前頭側頭葉変性症は『心理学検定基本キーワード改訂版』には、「前頭側頭葉型認知症」として次のように書かれています。
代表的なものにピック病があり、パーソナリティ変化と行動障害を主症状とし、保続や言語障害なども出現する。(p.192)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
前頭側頭葉変性症よりピック病の方が聞いたことのある人が多いかもしれません。ピック病は前頭側頭葉変性症の1つであるということを覚えておきましょう。
前頭側頭葉変性症の主症状は、パーソナリティ変化と行動障害となっています。しかし、DSMを見るとパーソナリティ変化については注意した方がいいように思われます。
『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版』には前頭側頭葉変性症はなく、代わりに「ピック病による認知症」があります。
DSM-IV-TRではパーソナリティの変化が含まれていますが、DSM-5にはピック病とパーソナリティ変化の記述はなく、行動障害型と言語障害型の記述があります。ただし、『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』の診断的特徴の項目には「人格」が出てきます。
DSM-5による前頭側頭葉変性症の診断基準の中にはパーソナリティ(人格)の変化は入っていませんが、前頭側頭葉変性症にはパーソナリティ変化があると考えた方が良さそうです。
前頭側頭葉変性症をまとめると次のようになります。
- 行動障害型と言語障害型がある
- DSM-5の診断基準にはパーソナリティ変化は入っていないが、パーソナリティ変化はあると思われる
レビー小体病
レビー小体病は、『心理学検定基本キーワード改訂版』には「レビー小体型認知症」として書かれています。
発病初期には視空間認知障害や注意障害が目立ち、幻視やパーキンソニズム、睡眠障害などが出現する。(p.192)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』では、「Lewy小体型認知症」として次のように説明されています。
進行性の認知機能障害に加え、多彩な精神症状とパーキンソニズムを示す変性疾患である。(中略)Alzheimer病同様に病初期から記憶障害が目立つが、記憶障害はAlzheimer病より軽い一方で、遂行機能障害や注意障害が目立つことがある。反復性に生じる人物や動物の幻視・錯視が特徴的で、うつ状態や妄想などの精神症状も合併しやすい。症状は動揺しやすく、分単位から週・月単位で変動するため、せん妄との鑑別が重要である。(p.107)
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』
『心理学検定基本キーワード改訂版』と『精神医療・臨床心理の知識と技法』に共通するのは幻視、注意障害、パーキンソニズムです。
幻視で見えるのは人物や動物で、錯視も生じることが特徴です。
記憶障害もありますが、アルツハイマー病よりも軽いと書かれています。その一方で、遂行機能障害や注意障害が目立つこともあります。
認知機能障害は進行性で、『心理学検定基本キーワード改訂版』によると視空間認知の障害が目立つことが特徴です。
DSM-5では睡眠障害も診断基準に含まれているため、『精神医療・臨床心理の知識と技法』には書かれていない睡眠障害もレビー小体病の特徴として挙げられます。
また、症状が変動するため、せん妄との鑑別が重要です。
レビー小体病をまとめると次のようになります。
- 進行性の認知機能障害があり、視空間認知障害が目立つ
- 記憶障害はアルツハイマー病より軽いが、遂行機能障害や注意障害が目立つことがある
- 人物や動物の幻視・錯視がある
- パーキンソニズム、睡眠障害がある
- 症状が変動するため、せん妄との鑑別が重要
血管性疾患
認知症は脳に関係するため、脳梗塞や脳出血などの血管性疾患によっても生じます。『心理学検定基本キーワード改訂版』には「血管性認知症」として説明されています。
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を原疾患とする。病前のパーソナリティが先鋭化され、情動失禁を起こしやすく、認知機能の低下が島状で部分的など、動揺性の経過をとり段階的に進行する。(p.192)
『心理学検定基本キーワード改訂版』
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』には「血管性認知症」として次のように書かれています。
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など脳血管障害により生じる認知症である。(中略)症状はしばしば一進一退を繰り返しながら進行する(例えば多発性脳梗塞の場合、小梗塞が起きるたびに症状が段階的に悪化していく)。(中略)抑うつや感情失禁などを伴うことも多いが、病識は比較的保たれる。(p.107)
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』
認知症の血管性疾患は脳血管障害によって生じる認知症です。そのため、脳のどの部位で血管障害が生じるかによって症状が変わってきます。また、脳血管障害が起こるたびに症状が悪化していきます。
『心理学検定基本キーワード改訂版』によると、病前のパーソナリティが先鋭化されることも特徴となっています。
抑うつや感情失禁を伴うこともありますが、病識は比較的保たれます。
血管性疾患をまとめると次のようになります。
- 脳血管障害によって生じる
- 脳血管障害が起こるたびに症状が悪化する
- 病前のパーソナリティが先鋭化する
- 抑うつや感情失禁を伴うことがあるが、病識は比較的保たれる
認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)
認知症の周辺症状は、「認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれます。BPSDはその名の通り、行動症状と心理症状に分けられます。
BPSDについて、『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』には次のように書かれています。
認知症の進行とともに、認知症患者には認知機能障害だけでなくさまざまな精神症状、行動障害がみられる。これらは認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)、「周辺症状」とよばれ、実際の介護場面で問題となる。(p.107)
『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』
認知症の患者や家族等を支援するとき、認知症の中核症状だけでなく、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)に関する知識も重要になってきます。
『公認心理師必携テキスト』(p.225)には、BPSDの行動症状として次のものが挙げられています。
- 身体的攻撃性
- 徘徊
- 不穏
- 焦燥
- 逸脱行動・性的脱抑制
- 落ち着きのなさ
- 介護拒否
- 叫声
『公認心理師必携テキスト』
心理症状としては、『公認心理師必携テキスト』(p.225)には次のものが挙げられています。
- 妄想(物盗られ妄想)
- 幻覚
- 睡眠障害
- 抑うつ
- 無関心・無意欲状態
- 不安
- 誤認
『公認心理師必携テキスト』
代表的な認知症の説明で、抑うつや睡眠障害が特徴として挙げられていたため、認知症によって特徴的なBPSDがあるのかもしれません。現在手元にある文献等にはそのあたりの記述がないため、確認ができません。確認でき次第、追記したいと思います。
BPSDの症状を見るとわかるように、介護場面で問題となる症状があります。そのため、BPSDへの対応とともに、介護者への支援も重要になると考えられます。
まとめ
認知症の特徴は次の通りです。
- 器質性精神疾患に分類
- 中核症状と周辺症状がある
- 中核症状は認知機能の障害
- 周辺症状は「認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)」
- 進行性
- 慢性
認知症の症状は中核症状と周辺症状に分けられます。周辺症状は「認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれます。
- 記憶障害
- 見当識障害
- 理解・判断力障害
- 実行機能障害
行動症状
- 身体的攻撃性
- 徘徊
- 不穏
- 焦燥
- 逸脱行動・性的脱抑制
- 落ち着きのなさ
- 介護拒否
- 叫声
心理症状
- 妄想(物盗られ妄想)
- 幻覚
- 睡眠障害
- 抑うつ
- 無関心・無意欲状態
- 不安
- 誤認
『公認心理師必携テキスト』(p.225)より引用
アルツハイマー病をまとめると次のようになります。
- 認知機能の障害が特徴
- 初期には近時記憶障害、時間の見当識障害、視空間認知障害が目立つ
- 理解・判断力が低下するが、初期は目立たないこともある
- 言語機能は比較的保たれるが、進行すると構音障害反響言語などの言語面の障害が生じる
- 寝たきり状態になる
前頭側頭葉変性症をまとめると次のようになります。
- 行動障害型と言語障害型がある
- DSM-5の診断基準にはパーソナリティ変化は入っていないが、パーソナリティ変化はあると思われる
血管性疾患をまとめると次のようになります。
- 脳血管障害によって生じる
- 脳血管障害が起こるたびに症状が悪化する
- 病前のパーソナリティが先鋭化する
- 抑うつや感情失禁を伴うことがあるが、病識は比較的保たれる