産業・労働分野でのメンタルヘルス対策を考えるとき、ストレスチェック制度は必ず知っておく必要のある制度です。
今回は、ストレスチェック制度の目的、実施方法について紹介します。
ストレスチェック制度
ストレスチェック制度は2015年(平成27年)12月1日から施行された制度です。
ストレスチェック制度の根拠となる法律
ストレスチェック制度の根拠となる法律は、労働安全衛生法です。
第66条の10
労働安全衛生法
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
労働安全衛生法第66条の10に基づいて、ストレスチェック制度が実施されています。
ストレスチェック制度の目的
ストレスチェック制度の実施に関しては、厚労省が「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の実施マニュアル」(PDFファイル)を公表しています。
実施マニュアルによると、ストレスチェック制度の目的は次のようなものとされています。
この制度は、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(一次予防)を主な目的としたものです。
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の実施マニュアル
この目的からわかるように、ストレスチェック制度は一次予防を主な目的とした制度です。
ストレスチェック制度の実施義務
労働安全衛生規則によると、ストレスチェックは1年に1回実施することが義務づけられています。
第52条の9
労働安全衛生規則
事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次に掲げる事項について法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない。
労働安全衛生法第66条の10と、労働安全衛生規則第52条の9に書かれていることから、すべての事業者にストレスチェックが義務づけられていることがわかります。
しかし、テキスト等では「常時50人以上の労働者を使用する場合」という条件が付けられています。また、厚生労働省が出している資料等でも同様の条件が書かれています。
これについては、労働安全衛生法附則第4条に書かれています。
附則第4条
労働安全衛生法
第十三条第一項の事業場以外の事業場についての第六十六条の十の規定の適用については、当分の間、同条第一項中「行わなければ」とあるのは、「行うよう努めなければ」とする。
労働安全衛生法第13条第1項の事業場以外は、当分の間努力義務となっています。
では、労働安全衛生法第13条第1項にはどのように書かれているのでしょうか?
第13条
労働安全衛生法
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
第13条には産業医についての規定が書かれています。事業場の規模によって産業医の規定が異なっているため、労働安全衛生法施行令を参照します。
第5条
労働安全衛生法施行令
法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。
労働安全衛生法施行令第5条によると、産業医は常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任する義務があります。
ストレスチェック制度についても、当分の間は「常時50人以上の労働者を使用する」ということが実施義務の条件となります。
そのため、50人未満のところは努力義務となります。
ストレスチェック制度の検査実施者
ストレスチェック制度は事業者に義務づけられた制度です。
実際にストレスチェックを実施する者の規定はどのようになっているのでしょうか?
第66条の10
労働安全衛生法
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
労働安全衛生法第66条の10では、「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」が検査を行わなければならないとされています。
検査の実施者については、2018年(平成30年)8月9日の労働安全衛生規則改正により、必要な研修を修了した歯科医師と公認心理師が追加されています。
第52条の10
労働安全衛生規則
第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。
第1号
医師
第2号
保健師
第3号
検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
国家資格の公認心理師ができたことで、心理職がストレスチェック制度に入ることができたと言えるかもしれません。
ストレスチェックの結果通知
ストレスチェック制度に基づいて実施された検査の結果は労働者に通知されることになります。
第66条の10第2項
労働安全衛生法
事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。
労働安全衛生法第66条の10第2項には2つのことが書かれています。
1つは、事業者がストレスチェックを実施する医師等から労働者に結果が通知されるようにすることです。
もう1つは、検査を受けた労働者の同意を得ないで、その結果を事業者に提供してはいけないことです。
つまり、ストレスチェックの結果は事業者ではなく、労働者に通知され、その内容を事業者が知るためには労働者の同意が必要ということになります。
ストレスチェック制度における面接指導
ストレスチェック制度では、労働者に対する面接指導に関する規定も設けられています。
労働安全衛生法第66条の10第3項には次のように書かれています。
第66条の10第3項
労働安全衛生法
事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であつて、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。
当然ではありますが、面接指導を申し出た労働者に対して、その申し出を理由とした不利益な扱いは禁止されています。
心理的な負担が厚生労働省令で定める要件に該当している労働者が、医師による面接指導を希望した場合、事業者は医師による面接指導を行わなければいけないとされています。
対象となる労働者の要件は、労働安全衛生規則第52条の15に書かれています。
第52条の15
労働安全衛生規則
法第六十六条の十第三項の厚生労働省令で定める要件は、検査の結果、心理的な負担の程度が高い者であつて、同項に規定する面接指導(以下この節において「面接指導」という。)を受ける必要があると当該検査を行つた医師等が認めたものであることとする。
面接指導の対象となる労働者の要件(いわゆる高ストレス者)は、検査を行った医師等が認めるというものです。
面接指導の結果、事業者には必要な措置を講じるために医師の意見を聞くこと、必要な場合は適切な措置を講じることが義務づけられています。
第66条の10第5項
労働安全衛生法
事業者は、第三項の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
第6項
事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
ストレスチェック制度はただ労働者のストレス状況をチェックするだけでなく、労働環境等の変更を実施することも含めた制度と言えます。
まとめ
- ストレスチェック制度は労働安全衛生法を根拠としている
- 一次予防が目的
- 50人以上の労働者を使用する事業者に年1回の実施が義務づけられている
- 50人未満の事業者は当分の間努力義務
- ストレスチェックの実施者は医師、保健師、必要な研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士、公認心理師
- ストレスチェックの結果は労働者の同意がなければ事業者に提供してはいけない
- 高ストレス者が医師による面接指導を希望した場合、事業者は医師による面接指導を行わなければならない
- 面接指導の申出による不利益な扱いをしてはならない
- 面接指導の結果に基づき、事業者は医師の意見を聴かなければならない
- 必要があるときは、事業者は必要な措置を講じなければならない