ヘルピング、あるいはカウンセリングや心理療法では、クライエントが自分自身について新たな理解に達することが重要になります。
その新たな理解が変化に繋がるからです。
ヘルピングスキルでは、ヘルピング・プロセスを探求段階、洞察段階、行動(アクション)段階の3段階に分けています。探求段階で十分に探求した後に、洞察段階に入ります。
クライエントが新たな理解に達するのが洞察段階です。
ヘルピング・プロセスにおける洞察段階には3つの目標があります。それを実現するために、洞察段階のヘルピングスキルが使われます。
洞察段階の3つの目標と、それを実現するためのスキルを見ていきましょう。
ヘルピング・プロセスの洞察段階とは?
ヘルピング・プロセスの洞察段階は、精神分析的理論がその理論的背景となっています。
探求段階の理論的背景はクライエント中心理論だったので、段階が変わると同時に理論的背景も変わることになります。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』には、精神分析的理論がヘルピングスキルの3段階モデルとどのように関係するかについて、次のように書かれています。
精神分析的理論において人生早期の対人関係、防衛機制、洞察、治療関係の扱いの重要性を強調していることと、私の洞察段階についての考えとは一致する。(p.200)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルピングスキルでは、精神分析的理論のすべてを活用するのではなく、必要なところを活用しています。
その証拠に、『ヘルピング・スキル第2版』では、次のように述べられています。
伝統的な精神分析的理論とは対照的に、洞察段階におけるヘルパーの役割は、洞察を提供する人物となることではなく、クライエントが洞察を得られるよう手ほどきを行うことになる、と私は強調したい。(p.200)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
このような態度は、クライエント中心理論に通じるところがあるかもしれません。また、認知行動療法(CBT)のソクラテス式質問法の発想に近いと言えるかもしれません。
ヘルピング・プロセスでは、クライエントに焦点を当てることが重要であり、クライエントを中心としてプロセスが展開することを意味していると考えられます。
洞察段階の目標
ヘルピング・プロセスの洞察段階には3つの目標があります。
その3つの目標は、「気づきをはぐくむこと」、「洞察をはぐくむこと」、「よりよい対人関係をはぐくむこと」です。
気づきをはぐくむこと
気づきをはぐくむことは、ヘルピングだけでなく、多くのカウンセリングや心理療法で重要なものと位置づけられていると思います。
クライエントが自分の思考や行動の癖に気づくことが、変化へと繋がっていくからでしょう。
しかし、クライエントにとってその癖が当たり前すぎて、自分がどのように反応しているのかに気づいていないことが少なくありません。それに対する気づきをはぐくむことが、洞察段階の1つの目標になります。
洞察をはぐくむこと
洞察段階において洞察が重要なのは言うまでもありません。その洞察は、気づきによって導かれます。
『ヘルピング・スキル第2版』には、洞察について次のように書かれています。
洞察を得たクライエントは、物事を新しい観点から眺め、複数の物事を関連づけることが可能となり、自分が行動するとなぜそのようなことが生じるのかを理解するようになる(Elliott et al., 1994)。(p202)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
※Elliott, R., Shapiro, D. A., Firth-Cozens, J., Stiles, W. B., Hardy, G. E., Llewelyn, S. P., & Margison, F. R. (1994) Comprehensive process analysis of insight events in cognitive-behavioral psychodynamic-interpersonal psychotherapies, Journal of counseling Psychology, 41, 449-463.
この記述から、クライエントが自分の感情(フィーリング)を十分に探求することが、洞察するのに必要であることがわかると思います。
探求段階を疎かにすると、洞察段階はうまくいかないでしょう。
洞察段階ではぐくむ洞察には、知的洞察と情動的洞察の2つあります。
知的洞察と情動的洞察
知的洞察は「頭で理解する」ような洞察のことです。
『ヘルピング・スキル第2版』では、次のように説明されています。
知的洞察は問題に対して客観的な説明を与える。(p.202)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
知的洞察は客観的な説明であるため、問題の原因を説明できても、それに関係する感情には触れられないということも起こります。
そこで重要になるのが情動的洞察です。
情動的洞察について、『ヘルピング・スキル第2版』では次のように説明されています。
情動的洞察は感情を知性につなげ、当事者意識や責任感を作り出す(Gelso & Fretz, 2001)。(p.202)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
※Gelso, C. J., & Fretz, B. R. (2001) Counseling psychology(2nd ed.). Belmont, CA: Thomson-Wadsworth.
情動的洞察は感情と知性が関係するため、より深い洞察と言えるでしょう。
感情は変化を促すものにもなりうるという意味で、知的洞察だけでなく、情動的洞察をはぐくむ必要があります。
よりよい対人関係をはぐくむこと
すべてのクライエントの生活において、対人関係は重要なものです。それは、人が「社会的な生き物」と呼ばれることからもわかると思います。
洞察段階では、よりよい対人関係をはぐくむことも目標となっています。
洞察段階のもう1つの特別な目標は、クライエントが自分の対人関係のもち方への気づきと洞察を得ることである。クライエントはしばしば人からどう見えるかに気づいていない。したがって、ヘルピング関係でクライエントがどう見えるかをフィードバックして伝えることは、援助目標の1つとなる。(p.203-204)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
人からどう見られているかを意識していなかったり、人からどう見られているかについて過敏に反応していたりするなど、クライエントによって違いはありますが、人からどう見えるかということについて、現実的な検討を行う必要がある場合があります。
これは、機能分析心理療法の臨床関連行動とも関係してくる視点かもしれません。
機能分析心理療法は行動療法(行動分析学)ですが、精神分析との関連にも言及されている心理療法なので、精神分析的理論を理論的背景とする洞察段階と関連している可能性もありそうです。
洞察段階での主なスキル
洞察段階では、探求段階と同様に、様々なスキルが使われます。
洞察段階で主に使われるスキルとして、『ヘルピング・スキル第2版』では次のものが挙げられています。
洞察段階での主要な関連スキルは、挑戦、解釈、洞察の自己開示、および即時性である。(p.205)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
このほかにも、開かれた質問、かかわりと傾聴、言い換え、感情(フィーリング)の反映、沈黙といった探求段階のスキルも使われます。
ヘルピングスキルは、探求段階、洞察段階、行動(アクション)段階の3段階に分かれていますが、それぞれが独立したものではありません。
それぞれの段階で主に使われるスキルがありますが、そのスキルは他の段階でも使われることがあるということです。
特に、かかわりと傾聴や開かれた質問などはヘルピング・プロセス全体を通して重要なスキルと言えるでしょう。
まとめ
ヘルピング・プロセスにおける洞察段階の目標は、3つあります。
それらの目標を達成するために、洞察段階では主に次のスキルが使われます。
それ以外にも探求段階のスキルが使われるので、洞察段階をうまくできるようになりたい場合は、探求段階のスキルも練習する必要があります。
ヘルピングスキルは、探求、洞察、行動(アクション)という3段階で構成されていて、それらが相互に関係し合うものになっています。
そのため、ヘルピングスキルを使ってヘルピングやカウンセリング、心理療法を効果的に行いたい場合、すべてのスキルの練習をするといいでしょう。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』 には、洞察段階のおけるヘルパーの視点の活用についても書かれているので、より詳しく知りたい人は手に取ってみることをオススメします。