弁証法的行動療法(DBT)は境界性パーソナリティ障害(BPD)に対する治療効果が実証されている治療法の1つです。
境界性パーソナリティ障害は自殺リスクの高い障害の1つで、その治療、支援が大きな問題となっています。
それにもかかわらず、境界性パーソナリティ障害は偏見を持たれていて、医療者・支援者であっても誤解していることもあります。
マーシャ・リネハン(Marsha M. Linehan)による弁証法的行動療法では、境界性パーソナリティ障害に対する視点を大きく転換しています。弁証法的行動療法を知れば、境界性パーソナリティ障害の理解が大きく変わるかもしれません。
弁証法的行動療法は境界性パーソナリティ障害だけでなく、すべてのクライエントとの向き合い方を再考させられるようなエッセンスも含まれていると思います。
弁証法的行動療法のマニュアルである『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法-DBTによるBPDの治療』は、境界性パーソナリティ障害や感情調節困難に興味がなくても、一読する価値があります。
『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法-DBTによるBPDの治療』
『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法-DBTによるBPDの治療』 は、弁証法的行動療法を知るのに欠かせない本です。
原書のタイトルは『Cognitive-Behavioral Treatment of Borderline Personality Disorder: Diagnosis and Treatment of Mental Disorders』です。アメリカでは第2版が出版されているそうです。
『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法-DBTによるBPDの治療』 の目次
まずは目次を見てみましょう。
第I部 理論と概念
第1章 境界性パーソナリティ障害-概念、論争、定義
第2章 治療の弁証法的基盤と生物社会的基盤
第3章 行動のパターン-ボーダーライン患者の治療における弁証法的ジレンマ第II部 治療の概要と目標
第4章 治療の概要-標的、戦略、前提の要約
第5章 治療における行動標的
第6章 標的行動をめぐる治療の構造化第III部 基本的な治療戦略
第7章 弁証法的治療戦略
第8章 核となる戦略(パート1)-認証
第9章 核となる戦略(パート2)-問題解決
第10章 変化の手続き(パート1)
第11章 変化の手続き(パート2)
第12章 スタイル戦略-コミュニケーションのバランスをとる
第13章 ケースマネジメント戦略-コミュニティとの相互作用第IV部 特定の課題に対する戦略
『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法-DBTによるBPDの治療』
第14章 構造的戦略
第15章 特別な治療戦略
弁証法的行動療法による治療の概要に入る前に、理論と概念について書かれています。
特に第1章「境界性パーソナリティ障害-概念、論争、定義」は重要なところなので、飛ばさずに読むといいでしょう。
第II部で治療の概要と目標について解説があり、それから具体的な治療戦略に入っていくという構成になっています。
弁証法的行動療法について
弁証法的行動療法(DBT)には4つの治療モードと、2つの治療戦略があります。
弁証法的行動療法の治療モード
弁証法的行動療法は4つの治療モードで構成されています。
- 個人精神療法
- スキル・トレーニング
- 24時間の電話コンサルテーション
- セラピストのためのケース・コンサルテーション・ミーティング
この構造のため、日本にそのまま導入することが難しく、さまざまな工夫がなされているようです。
個人精神療法のセラピストが治療チームの主セラピストを担います。弁証法的行動療法は個人精神療法を中心としています。
スキル・トレーニングでは、核となるマインドフルネスのスキル、苦悩に耐えるスキル、情動制御スキル、対人関係に有効性を持たせるスキルという4つのスキルがトレーニングされます。
マインドフルネススキルが弁証法的行動療法の中心をなすものとされているため、「核となる」という表現が使われています。
電話コンサルテーションはスキルの般化のために使われます。
セラピストのためのケース・コンサルテーション・ミーティングは、セラピストを支えるためのもので、すべてのセラピストが参加します。
弁証法的行動療法の戦略
弁証法的行動療法は、相反する2つの治療戦略を弁証法を使って統合している治療法です。
『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法-DBTによるBPDの治療』 では「認証」と訳されていますが、他にも「承認」や「有効化」などとも訳されているValidationがその1つです。
ここでは「承認」の訳を使います。
承認は徹底的な受容を意味しています。それは現状をただただ受け入れるというものであり、変化を前提としていないという特徴があります。
弁証法的行動療法では、「承認戦略」として、治療法の重要な戦略の1つとなっています。
一方で、変化がなければ治療効果を得ることができません。そこで重要になってくるのが、「問題解決戦略」です。
問題解決戦略は行動療法をベースとした変化の技法を用いた戦略になります。
承認戦略と問題解決戦略という2つの矛盾した戦略を統合するために、弁証法的行動療法では「弁証法」が使われています。
弁証法的行動療法を知るメリット
弁証法的行動療法を知るメリットの1つは、境界性パーソナリティ障害に対する新たな視点を得られることにあります。
弁証法的行動療法による境界性パーソナリティ障害の概念化は、とても共感的なものとなっています。この視点を得られると、境界性パーソナリティ障害や感情調節困難に対する治療・支援に役立ちます。
もう1つのメリットは、「承認戦略」にあります。
承認はとても重要なもので、弁証法的行動療法の枠組みを超えて必要なものだと考えられます。行動分析学的に見れば、「自己の私的制御」にも関係してきます。
弁証法的行動療法に関する本はたくさん出ていますが、すべてのベースとなるものとして『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法-DBTによるBPDの治療』 を読んでおくと、理解が深まります。