ヘルピングスキルは、ヘルピング・プロセスやカウンセリング・心理療法で使えるスキル群です。スキルは独立したものではなく、統合して使いこなす必要があります。
スキルを学んだはいいけど、どのように組み合わせて使えばいいか、困ってしまうことはありませんか?
ヘルピング・プロセスの探求段階には複数のスキルがあります。それらのスキルを統合することができれば、より機能するヘルパー、カウンセラー、セラピストになることができます。
探求段階のスキルの統合について見ていきましょう。
探求段階のヘルピングスキル
探求段階のスキルの統合を考える前に、探求段階のヘルピングスキルとその目標を振り返っておきましょう。
探求段階の目標
ヘルピング・プロセスの探求段階で使われるヘルピングスキルは、探求段階の目標を達成するために使われます。
探求段階の目標は4つあります。
- ラポールの構築と治療関係の発展
- 思考を最大限に利用し、クライエントに自分の物語を話すように援助すること
- 情動を最大限に利用すること
- クライエントについて学ぶこと
この4つが探求段階の目標です。この目標を達成するために、ヘルピングスキルが使われることになります。
探求段階の目標については、「【ヘルピングスキル】探求段階の目標は4つ!ヘルピング・プロセスで最も重要といえるもの」で詳しく説明しています。
かかわりと傾聴
ヘルピングスキルのかかわり(attending)と傾聴(listening)は、最も重要なスキルと言えます。このスキルなしにヘルピングは成立しないでしょう。
かかわりスキルは、クライエントの方に体を向けることです。それはクライエントに注意を向けていることを伝えることを目的としています。
傾聴スキルは、クライエントが伝達するメッセージを理解することです。かかわりスキルを基盤として傾聴スキルが成立すると考えられます。
ヘルピングスキルのかかわりと傾聴については、「【ヘルピングスキル】かかわりと傾聴で大事な10のこと」で詳しく説明しています。
開かれた質問と探り
開かれた質問と探り(open questions and probes)も探求段階のスキルとして重要なものです。
開かれた質問と探りは、クライエントが思考と感情(フィーリング)を探求することを促すためのスキルです。
クライエントに焦点を当て続けることに注意して、開かれた質問と探りスキルを使うことで、クライエントが探求することをサポートします。
ヘルピングスキルの開かれた質問と探りについては、「【ヘルピングスキル】開かれた質問と探りとは何か?どう使うのか?」で詳しく説明しています。
言い換え
言い換え(restatement)は、クライエントが話したことを言い換えるものです。ただ言い換えるだけではなく、クライエントが言ったことよりも具体的なものとして伝えるものです。
言い換えは「感情の反映」と似ているところがありますが。強調するポイントが異なります。
言い換えが強調するポイントは事実や内容についてです。ここが感情の反映とは異なるところになります。
ヘルピングスキルの言い換えについては、「【ヘルピングスキル】「言い換え」スキルはどう使う?強調することとは?」で詳しく説明しています。
感情(フィーリング)の反映
ヘルピング・プロセスでは情動を重視しているので、感情(フィーリング)の反映は重要なスキルの1つとなっています。
感情(フィーリング)の反映(reflection of feeling)は、クライエントの感情を強調しながら、クライエントの話したことを伝え返すことです。
強調するポイントが感情という点で、言い換えとは異なります。
感情の反映は共感と似ていますが、感情の反映が必ず共感になるわけではありません。
ヘルピングスキルの感情の反映については、「【ヘルピングスキル】「感情の反映」のポイント!クライエントの感情の情報源とは?」で詳しく説明しています。
情報、是認-保証、閉じられた質問、自己開示、沈黙
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』では、情報、是認-保証、閉じられた質問、自己開示、沈黙は、「その他のスキル」としてまとめて説明されています。
これらのスキルは他のスキルに比べて重要度は下がりますが、必要ないスキルではありません。しっかりと身につける必要があります。
ヘルピング・プロセスに関する情報(infomation about the helping process)は、ヘルピング・プロセスに関する情報をクライエントに伝えるスキルです。
是認-保証(approval-reassurance)は、情緒的なサポートを与えたり、共感や理解を示したりするために使われるスキルです。
閉じられた質問(closed questions)は、「はい」や「いいえ」などの1~2語で答えられる質問で、情報を集めるために使われます。
探求のための自己開示(self-disclosures)は、クライエントの探求を促すために使われる、ヘルパーの自己開示です。
沈黙(silence)は、ヘルパーもクライエントも話していないときの休止です。クライエントの探求を妨害しないために使われます。
ヘルピング・プロセスの情報、是認-保証、閉じられた質問、自己開示、沈黙については「【ヘルピングスキル】情報、是認-保証、閉じられた質問、自己開示、沈黙スキルの使い方」で詳しく説明しています。
探求段階のスキルの統合
探求段階のスキルの統合は、クライエントの探求を促すために、探求段階でのスキルを使い分けていくということです。
『ヘルピング・スキル第2版』では、「セッションを開始する」、「かかわりと傾聴」、「探求を続けさせる」、「クライエントに焦点を当て続ける」、「クライエントの反応に注意を払う」、「多文化への配慮」、「クライエントが十分に探求したときを見極める」に分けて説明していあります。
これらの説明は実証的なデータに基づていないことに注意が必要です。
これらの示唆は、実証的なデータではなく臨床的経験に基づいている。残念ながら、介入のタイミングに関する実証的データはほとんど入手不可能だからである。(p.169)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
セッションを開始する
セッションを開始するときは、ヘルピング・プロセスで何が行われるかの情報を提供することが重要です。そのため、ヘルピング・プロセスに関する情報スキルが最初に使われます。
情報を伝えることは重要ですが、そこに時間を使いすぎると、本来の目的であるヘルピングの時間が短くなってしまうので、バランスを取ることが必要になります。
『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。
しゃべりすぎてしまうのではなく、「何について話したいですか」「どんなことで悩んでいるのですか」といった開かれた質問をしてクライエントに焦点を戻し、関心事について話すように促す。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
このように、セッションを開始する段階では、情報スキルから始め、開かれた質問スキルを使って、焦点をクライエントに戻す必要があります。
クライエントがより多くのヘルピング・プロセスに関する情報を求めている場合は、おそらくクライエントから情報を求めるような反応があると考えられます。
そのため、情報スキルと開かれた質問スキルとを状況に応じて使っていくことになります。そのとき、別のスキルを使うことも必要になることもあるでしょう。
例えば、不安の強いクライエントの場合、その不安に対して感情(フィーリング)の反映スキルを使った方が効果的になることもあるかもしれません。
かかわりと傾聴
かかわりと傾聴スキルは、ヘルピング・プロセス全体で重要な役割を果たします。そのため、『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
セッション全体を通して、ヘルパーは適切なかかわり行動を使うべきである。(p.171)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
どのようなときにどのスキルを使うかという視点で見れば、かかわりと傾聴は常に候補として用意されている必要があるスキルと言えます。
かかわりと傾聴では、是認-保証スキルを併用することも必要になります。
もしクライエントが勇気づけを必要としているようなら、ヘルパーは是認-保証を使う。(p.171)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルピング・プロセスは決まった道を進んでいくものではないので、その場に状況に応じて臨機応変にスキルを使い分けることが重要になります。
複数のスキルを使えることは、状況に応じた対応ができるようになることに繋がります。
探求の進行を続けさせる
ヘルピング・プロセスの探求段階は探求することが目的です。そのため、クライエントが探求を続けられるようにスキルを使い分けることが求められます。
そのとき、中心となるスキルが感情(フィーリング)の反映です。
たいていのクライエントにとってもっともよい探求の手段は、感情(フィーリング)の反映である。ヘルパーは迷ったときは、感情(フィーリング)の反映を頼みにするとよい。(p.171-172)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
探求の進行には複数のスキルを使い分けることが重要です。自己開示スキルや開かれた質問スキルも、探求のためには役に立ちます。
また、クライエントが話した内容を明確にするためには言い換えスキルを使うといいでしょう。それと同時に、具体的な情報を得たい場合には、閉じられた質問スキルが役に立ちます。
『ヘルピング・スキル第2版』には、セッションの流れを維持するために使うスキルとして、開かれた質問と探りスキルを推奨しています。
セッション全体を通して、ヘルパーは開かれた質問と探りを用いて、セッションの流れを維持するとよい(例:「そのことについてあなたはどのように感じました」あるいは「そのことについてもっとお話しください」)。(p.172)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
クライエントが探求を進行していくことが探求段階の目的なので、特定のスキルを使うのではなく、すべてのスキルを使って、探求を促していくことが重要です。
『ヘルピング・スキル第2版』で「その他のスキル」としてまとめられたスキルも、重要な役割を果たします。
クライエントに焦点を当て続ける
クライエントに焦点を当て続けることは重要です。
これを実現するためには、特定のスキルを使うというより、常にクライエントに焦点を当て続ける努力を続けることの方が必要になります。
『ヘルピング・スキル第2版』でも、特定のスキルを挙げて説明されているわけではありません。
クライエントの問題が対人関係にあるとしたら、どうしてもその相手に焦点を当ててしまうことがあります。それは仕方ないことですが、それに気づいて焦点をクライエントに戻すようにすることが重要です。
探求段階のヘルピングスキルは、クライエントに焦点を当て続けるのに役立つものがたくさんあるので、それらを使ってクライエントに焦点を当て続けるようにしましょう。
クライエントの反応に注意を払う
ヘルピング・プロセスが順調に進んでいるか、どこかで行き詰っているのかを確認するには、クライエントの反応に注意を払うことが役に立ちます。
クライエントの反応をよく観察することで、どのスキルを使えばいいのか、ヘルピング・プロセスがどの段階にいるのかを見極める必要があります。
もしヘルピング・プロセスがうまくいっていないのであれば、何がうまくいっていないかを考える必要があります。
『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。
おそらく、ヘルパーはかかわりや傾聴をしていない、閉じられた質問をしすぎている、クライエント以外の誰かに焦点を当てている、あるいは不適切な言い換えと反映を行っている。(p.174)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルパー自身のスキルの使い方にも注意して、クライエントが探求を続けられるようにサポートすることが必要です。
多文化への配慮
多文化への配慮も、特定のスキルと関係しているものではありません。
日本は文化的な多様性という意味では、アメリカなどの多民族国家と比べれば、均質性が高いと思います。それでも、文化的な差異、価値観の差異が存在しているので、多文化への配慮には注意が必要です。
クライエントが十分に探求したときを見極める
クライエントが十分に探求したことを確認する方法として、『ヘルピング・スキル第2版』には、ヘルパーが次の質問に答えられることを挙げています。
- その問題はどのくらい重大なのか。
- そのクライエントはどのように行動しているのか。
- そのクライエントはその問題についてどのくらい開示しているか、秘密にしているか。
- クライエントが話していることに食い違いはあるのか。
- その問題を引き起こし、維持されているクライエントの役割はどんなものか。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
クライエントがこれらの質問に答えられるのではなく、ヘルパーが答えられるということに注意しましょう。
これらの質問に答えられたら、その答えについてクライエントに確認する必要があります。ヘルパーが勝手に思い込んでいる可能性を排除するためです。
『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。
クライエントがその状況を十分に探求してきたとヘルパーが感じたら、言い換えを使って要約したり、クライエントが他に付け加えることがあるかどうかを確認したり、終結を伝えたり、洞察段階の準備をするとよい。(p.175)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルパーの考えが合っているかどうかを確認するためには、言い換えスキルが使われます。
クライエントが十分に探求し、ヘルパーがそれを理解して、適切に言い換えることができたなら、クライエントはヘルパーの言い換えに同意するでしょう。
まとめ
探求段階で使われるヘルピングスキルは複数あります。実際のヘルピング・プロセスでは、それらのスキルを統合して、使いこなす必要があります。
臨床的経験から示唆される探求段階のスキルの統合について、この記事で紹介してきました。それをまとめると次のようになります。
1つ1つのスキルの練習だけでなく、スキルを統合して使う練習も重要になります。
『ヘルピング・スキル第2版』 には、ヘルピング・プロセスで起こっていることを理解するツールとしてヘルパーの自己知覚を使うこと、やりとりの例、ヘルパーが経験する問題とその解決策、グループ実習についても書かれています。
やりとりの例を見れば、探求段階のスキルの統合がどのように行われるのかをイメージしやすくなると思います。
探求段階は洞察段階の基礎となるので、探求段階でクライエントがしっかりと探求できるように、ヘルパーとしてヘルピングスキルを身につけるといいでしょう。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』