ヘルピングスキルには、かかわりと傾聴というスキルがあります。傾聴はカウンセリング・心理療法で大事と言われています。
かかわりと傾聴を実現するためには、10の大事なことがあります。その10のことを知り、練習することで、心理職として成長することができるでしょう。
ヘルピングスキルは、カウンセリングや心理療法の基礎となるスキルとして位置づけられています。基礎がしっかりしていない建物はすぐに崩れてしまうのと同じように、基礎的なスキルがないとカウンセリングや心理療法はうまくいかないと思います。
一流のスポーツ選手が基礎トレーニングを欠かさないように、心理職としての基礎トレーニングは大事にしたいものです。
基礎トレーニングの1つとして、ヘルピングスキルを見ていきます。今回は主に探求段階で使われる、かかわり(attending)と傾聴(listening)についてです。
ヘルピングスキルについておさらい
ヘルピングスキルは、カウンセリングや心理療法の基盤となるスキルと位置づけられています。
ヘルピングは、『ヘルピング・スキル第2版』で次のように定義されています。
「ヘルピング」は、ある人物が別の人物を援助して、感情(フィーリング)を探求し、洞察を得て、生活に変化を起こせるようにすることとして定義される。(p.4)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルピングを実現するためのスキルが、ヘルピングスキルです。
ヘルピング・プロセスは、探求段階、洞察段階、行動(アクション)段階の3段階に分けられています。それぞれの段階で、主に使われるヘルピングスキルがあり、それらを身につけることでより効果的なヘルピングを行えるようになります。
ヘルピングについては、「ヘルピングスキルにおける「ヘルピング」とは何か?」で詳しく説明しています。
ヘルピングスキルにおける「かかわり」と「傾聴」
ヘルピング・プロセスは、探求段階、洞察段階、行動段階の3段階からなっています。
「かかわり」と「傾聴」はその中の探求段階で重要になるスキルです。
探求段階はクライエントが自分の感情(フィーリング)を探求する段階です。詳しくは「【ヘルピングスキル】探求段階の目標は4つ!ヘルピング・プロセスで最も重要と言えるもの」に書いてあります。
『ヘルピング・スキル第2版』では、探求段階の最初のスキルとして、「かかわり」と「傾聴」が出てきます。このスキルは最も重要なスキルと言えるでしょう。
「かかわり」と「傾聴」という言葉からどのようなものか想像できますが、ヘルピングスキルにおける「かかわり」と「傾聴」は次のようなものとされています。
かかわり(attending)と傾聴(listening)は、クライエントに安全を感じさせ、自分の思考と感情(フィーリング)を探求させるような、全ヘルピング・プロセスを通してヘルパーが使う基礎的スキルである。(p.87)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
「かかわり」と「傾聴」のスキルは探求段階で説明されていますが、すべてのヘルピング・プロセスを通して使われるスキルです。
探求段階が終わったら使われなくなるものではないため、いつでも使えるように準備しておく必要があります。
ヘルピングスキルにおける「かかわり」とは何か?
ヘルピングスキルにおける「かかわり」について、『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
かかわりは、自分の身体をクライエントのほうに向けることを指す。ヘルパーにとって、かかわりの目標は、クライエントに注意を払っていることを伝達することであり、クライエントが自分の思考と感情(フィーリング)についてオープンに(心を開いて)話すように促すことである。(p.87)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
単純に、体をクライエントに向けることを指すというのが、ヘルピングスキルにおける「かかわり」です。
ただ体をクライエントに向けるだけではなく、クライエントに注意を払っていると伝わることが目的なので、それを実現する形で行う必要があります。
クライエントに関心を向けているということを非言語的に伝えるためのスキルが、「かかわり」スキルということです。無意識の動きも影響をするので、簡単そうで難しいのがかかわりスキルと言えます。
ヘルピングスキルにおける「傾聴」とは何か?
心理職、特に心理カウンセラーを志した人にとって、「傾聴」は当然のものだと思います。そして、それがどういうものなのかも理解しているでしょう。
心理学を学んできていればわかると思いますが、抽象的な概念ほど研究者によって違う定義を使っていたりします。傾聴も抽象的なものなので、ヘルピングスキルにおける傾聴を確認しておきましょう。
『ヘルピング・スキル第2版』には、傾聴について次のように書かれています。
かかわりは、ヘルパーがクライエントのほうに身体を向けることであるが、傾聴はクライエントに単に身体的にかかわること以上のことをいう。傾聴は、言語的であれ非言語的であれ、明確であれあいまいであれ、クライエントが伝達するメッセージをとらえ、理解することである(Egan, 1994)。傾聴は、クライエントが言っていることを聴こう、理解しようと努めることでもある。(p.88)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
※Egan, G. 1994. The skilled helper (5th ed.). Monterey, CA: Brooks / Cole.
傾聴はかかわりを含む概念だと思われます。かかわりスキルが前提にあり、その上に傾聴スキルが成立するというものなのかもしれません。
かかわりと傾聴が一緒に説明されているのは、別々のものとして扱えないからなのかもしれません。
その証拠に、『ヘルピング・スキル第2版』には次のような記述があります。
かかわり行動は、ヘルパーに傾聴のための足場を提供するが、かかわりは必ずしも傾聴を保証するものではない。(p.88)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
傾聴のためにはかかわり行動が必要ですが、かかわり行動は傾聴ではないということです。
かかわりと傾聴を実現するために必要な10のこと
ヘルピングスキルにおけるかかわりと傾聴がどのようなものかがわかっても、それをどう実現すればいいのかという問題が出てきます。
ヘルピングスキルは「スキル」なので、スキルとして身につけられるようになっていなければ意味がありません。そこで、かかわりと傾聴を実現するために必要な10のことが『ヘルピング・スキル第2版』には書かれています。
その10のことは、アメリカでよく使われている頭文字を取ったものでまとめられています。
それは、ENCOURAGESです。
E:アイコンタクトと表情表出(Eye contact)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
N:うなずき(Nod)
C:非言語行動における文化的差異の尊重(Cultural difference)
O:オープンスタンス(Open stance)
U:うん・ええといった承認の利用(Um-hmm)
R:リラックスし、専門家であること(Relax)
A:注意をそらすことを避ける(Avoid)
G:文法スタイルと会話ペースを合わせる(Grammatical style and pace speech)
E:第三の耳で聴く(Ear)
S:距離スペースを適切にする(Space)
日本語的にはわかりにくいので、別の覚え方があるといいかもしれません。
これらすべてに共通していることは、文化的差異を尊重することです。日本は多民族国家に比べれば文化的差異は小さいかもしれませんが、自分とクライエントに文化的差異がないとは言えません。
ヘルパーが同じ姿勢をしていても、クライエントにとって受け取り方は違うでしょう。
例えば、目を閉じて話を聞いているヘルパーがいたとします。あるクライエントは、「想像しながら聞いてくれている」と感じるかもしれません。別のクライエントは、「興味なさそうに聞いている」と捉えるかもしれません。
このような捉え方の違いを意識することがヘルピングスキルではとても重要です。
アイコンタクトと表情表出
アイコンタクトと表情表出は、言ってみれば顔を使った非言語的コミュニケーションです。それらを効果的に使うことで、かかわりと傾聴スキルの実現に役立ちます。
アイコンタクト
アイコンタクトは目を合わせることです。アイコンタクトは多すぎても少なすぎてもよくないので、適度なアイコンタクトをする必要があり、意外と難しいものです。
『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
私はヘルパーに押し付けがましくないアイコンタクトを適度に使うことを提唱する。クライエントにかかわりを感じてもらえれば十分で、目をそらさずにじっと見つめたり、まじまじと見たりしないほうがよい。(p.90)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
クライエントによってどの程度のアイコンタクトがいいのかが違うので、クライエントの反応を見ながら調整する必要があります。もしかしたら、クライエントの率直な感想を聞くことが役に立つかもしれません。
表情表出
表情表出は、表情を見せることです。重要な表情特徴について、『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
ヘルピングで使われる重要な表情特徴は、ほほえむこと(smiling)である。(p.91)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
もちろん、これは話している内容によってはご法度ですが、友好的に見えるので探求を促すことができるそうです。
この表情表出について、『ヘルピング・スキル第2版』には興味深いことが書かれています。
クライエントが何かおもしろいことを言っているときにはヘルパーはほほえんだり笑ったりしてもよく、クライエントがとても悲しいことを言っているときにはヘルパーは泣いてもよい。(p.91)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
「泣いてもよい」ことを意外に思う人もいるでしょう。これは、ヘルパーとしてクライエントの前にいると同時に、1人の人間としてクライエントと向き合っているということなのかもしれません。
『ヘルピング・スキル第2版』には書かれていませんが、クライエントの話に感情的に巻き込まれてしまわないように気をつける必要があると思います。
専門家として冷静な部分は常に残しておくことが重要だと思われます。
うなずき
うなずきは、クライエントの話を聞いていることを伝えることができます。これも多すぎたり少なすぎたりするとよくないので、適度なうなずきが必要になります。
うなずきについて、『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
うなずきの適切な使用は、特に発言が終わった際になされると、ヘルパーが傾聴して、自分の言っていることに寄り添っているとクライエントに感じされる。実際、言語メッセージはときには不要である。(p.91)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
うなずきだけで言語メッセージがいらないときがあるというのは、おそらく多くの人が経験していることだと思います。
クライエントが自分のことを話しているとき、ヘルパーがうなずいているだけでクライエントが話し続けるというような場合、言語メッセージは必要ないと言えるでしょう。
言語メッセージが不要なときがあることをあらためて言われると、うなずきの効果に気づかされます。
文化的差異の尊重
文化の違いによって、コミュニケーションの仕方は違います。ここで言う文化は、家族などの比較的小さい集団における文化も含まれるかもしれません。
ヘルパーはクライエントの分化を尊重し、クライエントのスタイルにできるだけ合わせることが重要です。これは、クライエントの非言語行動がクライエントによって違う意味を持つ可能性を念頭に置くことでもあります。
ヘルパーは心地よいと感じること、不快と感じることについてのフィードバックをクライエントに求めてもよい。(p.92)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
このようなことを確認することは、クライエントを尊重していることを伝えることになるかもしれません。
オープンスタンス
このオープンスタンスはヘルパーの姿勢のことを指します。オープンな姿勢を取ることが大事ということです。
『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
ヘルパーに良く推奨される身体の姿勢は、クライエント側に傾けることであり、腕と足を交差させずにオープンな身体の姿勢を維持することである。(中略)この前傾した、オープンな身体姿勢は、ヘルパーが注意を払っていることを効果的に伝える。(p.92)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
この部分を読むと、かかわりスキルを実現するための方法としてオープンスタンスがあると理解できます。これについても、その姿勢をクライエントがどう捉えるかが重要です。
オープンスタンスを実現するための姿勢として書かれていることは基本的なものですが、重要なことは注意を払っていることを伝えることにあります。
うん・ええといった承認
まず、『ヘルピング・スキル第2版』に書かれていることから見てみましょう。
ヘルパーは、クライエントが言ったことを認め、注意深く伝達し、立ち入り過ぎない支持を提供し、会話の流れをモニターし、そしてクライエントに話し続けることを促すような、最小限の励ましを使う。(p.92)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
これは、うなずきの音声バージョンに近いのかもしれません。
話を聞いているとき、「うん」や「ええ」と言うことで、話を聞いていることを伝え、話し続けることを促すことができます。
「なるほど」や「そうなんですね」のようなこともここに含まれるかもしれません。
リラックスし、専門家であること
緊張は伝わることがあるので、ヘルパーが緊張していればクライエントも緊張してしまう可能性があります。そのため、ヘルパーがリラックスしていることは、大事な要素なのでしょう。
専門家であることについては、『ヘルピング・スキル第2版』では次のように述べられています。
ヘルパーは自然に振る舞うとともに、専門家としてのスタンスを維持したい。このことを実行する1つの方法は、服装を通してである。私はヘルパー初心者にクライエントより一段上の服を着ることを提案することが多い。(p.93-94)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルパーは専門家であるため、専門家としてのスタンスを維持することは重要です。それは「何でもわかっている」というものではなく、真摯に、そして謙虚にクライエントと向き合うというものだと思います。
服装について専門書で言及されることはあまり多くはないと思いますが、『ヘルピング・スキル第2版』ではクライエントより一段上の服を着ることが提案されています。
注意をそらすことを避ける
かかわりと傾聴スキルが最も使われるのが探求段階です。クライエントの探求が目的になるので、それを妨げるものを避けるということです。
『ヘルピング・スキル第2版』には、次のような記述があります。
気を散らす非言語行動、割り込み、メモ取り、および触れることを避けること(p.94)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
メモ取りに関しては、認知行動療法(CBT)系であればメモしながら話を聞くことが多いと思うので、この辺をどううまくやるかが問われると思います。
ここでの目標はクライエントの探求を促すことなので、メモをするタイミングを調整することで対処可能だと思います。
文法スタイルと会話ペースを合わせる
大人を相手にするときと、子どもを相手にするときでは、おそらく多くの人が対応を変えていると思います。それと同じようなことを意味しているのでしょう。
『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。
ヘルパーがかかわりを伝える別の方法は、クライエントの言語と文法的なスタイルを一致させることである。言語はクライエントの文化的な経験と教育レベルに相応でなければならない。そうして、ヘルパーはクライエントとの絆を形成することができる。(p.95)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
これは家族療法のジョイニングと同じようなものと考えるとわかりやすいと思います。ジョイニングのスキルをすでに身につけている人は、そのスキルを活用することができます。
第三の耳で聴く
第三の耳で聴くというのは、言語的・非言語的に表現されたものの裏にあるものを想像するものです。
クライエントが何を伝えようとしているのか、何を感じているのか、という仮説を立て、それを検証していくプロセスでもあります。
『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように説明されています。
ヘルパーは非言語データを仮説を立てるのに使い、それからこれらの仮説の正確性を見極めるためにより多くのデータを集めるとよい。(p.97)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ここでも、文化的差異に注意して、クライエントの反応から読み取れることを決めつけないことが重要です。ヘルパーの文化での意味と、クライエントの文化での意味が異なる可能性があるからです。
臨床心理学的アセスメントは仮説生成-検証の循環なので、仮説を立て、それを検証するデータを集めていく必要があります。そのときに、第三の耳で聴くことが役に立ちます。
距離スペースを適切にする
距離スペースを適切にするというのは、パーソナルスペースのことを指しています。物理的な距離が近すぎることも、遠すぎることもよくないので、適度な距離を取ることが必要です。
パーソナルスペースは、親密、パーソナル、対人、公共の4つに分けられます。これについても、『ヘルピング・スキル第2版』で説明されています。
親密(0~46cm)、パーソナル(46cm~1.2m)、対人(1.2m~3.7m)、および公共(3.7m以上)である。(p.98)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
『ヘルピング・スキル第2版』では、次のような距離を適切だとしています。
たいていの場合は「パーソナル」から「対人」までの距離ゾーンがヘルピング関係での座席位置では適切であると考えられる。(p.98)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
部屋の大きさは椅子の配置などの関係で、ヘルパーとクライエントの距離はさまざまになりますが、おそらくパーソナルから対人の範囲内になることが多いと思います。
机やテーブルを挟んで座る場合、机やテーブルの幅が狭かったら斜向かいになるように座るなどの配慮が必要になります。
まとめ
ヘルピングスキルの「かかわり」と「傾聴」のスキルには、重要な10のことがあります。
- アイコンタクトと表情表出
- うなずき
- 非言語行動における文化的差異の尊重
- オープンスタンス
- うん・ええといった承認
- リラックスし、専門家であること
- 注意をそらすことを避ける
- 文法スタイルと会話ペースを合わせる
- 第三の耳で聴く
- 距離スペースを適切にする
『ヘルピング・スキル第2版』には、かかわりと傾聴スキルの例や、その効果、ヘルパーが経験する問題なども書かれているので、読む価値があります。
スキルを身につけるには、実践だけでなく、知識として理解することも重要です。
ヘルピングスキルでは、かかわりと傾聴スキルを10の要素に分解してくれているので、1つずつ練習することもできます。心理職仲間で集まってロールプレイで練習すれば、フィードバックももらえるので、練習効果は高くなります。
その練習の前に、ヘルピングスキルがどういうものなのかをきちんと学んでおくと、意識的にスキルを使った練習がやりやすくなるのでオススメです。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』