ヘルピングスキルの探求段階ではいくつものスキルが使われます。その中に、情報、是認-保証、閉じられた質問、自己開示、沈黙というスキルがあります。
カウンセリングや心理療法では閉じられた質問より開かれた質問が重視されたり、自己開示があまり推奨されなかったりします。
そのような常識があるにもかかわらず、ヘルピングスキルの探求段階ではそれらのスキルが使われることがあります。
「情報」というスキルは、その名前からあまりイメージできないかもしれません。
今回は、ヘルピングスキルの探求段階で使われる、情報、是認-保証、閉じられた質問、自己開示、沈黙のスキルを紹介します。
「ヘルピング・プロセスに関する情報」スキルの使い方
「情報」というスキルは、正式には「ヘルピング・プロセスに関する情報」と呼ばれています。その名の通り、情報を提供することを目的としたスキルです。
今の時代はインフォームドコンセントが行われることが当然なので、ヘルピング・プロセスに関する情報を提供することは重要なものです。
ヘルピングはどういうものなのか、何をするのかなどを事前に伝えることは、欠かせないものと言えます。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』には次のように説明されています。
ヘルピング・プロセスに関する情報(Information about the helping process)を提供することにより、クライエントはこれから行われることについて知ることができる。クライエントは自分がヘルピング・プロセスに参加したいのか、そしてどのように参加するかを判断するうえで、ヘルピング・プロセスと求められる適切な行動について知っておく必要がある。(p.154)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルピング・プロセスはヘルパーとクライエントの共同作業なので、クライエントがヘルピング・プロセスに関する情報を知ることが重要になると思います。
ただ、情報を詳しく伝えればいいというわけではなく、多すぎず少なすぎずということを意識しながら情報を提供する必要があります。
ヘルピング・プロセスに関する情報を提供することに時間を使いすぎると、ヘルピング・プロセスがなかなか進まないことになります。
逆に情報提供が少なすぎると、クライエントは不安を抱えたままヘルピング・プロセスを進めることになってしまうかもしれません。
ヘルパーにはクライエントをよく観察し、バランスをとるスキルが求められると思います。
どのような情報を提供するかについて、『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
クライエントは、セッションの長さ、セッションにかかる料金、セッションでの行動の規則、ヘルピングにおける守秘義務の限界、およびセッション外でヘルパーと接触するのが適切かどうかについても知っておく必要がある。(p.154)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
セッションの構造を伝えることは当然として、守秘義務の限界についても情報提供することが勧められています。
守秘義務の限界は、クライエントや他者が傷つけられる危険性があるとき、虐待、法令に基づく情報開示などが考えられます。
クライエントにきちんと情報を伝えることは、無用なトラブルを防止する役割も果たします。
「是認-保証」スキルの使い方
是認-保証は弁証法的行動療法(DBT)の承認とも関係してきそうなスキルです。
『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
是認-保証(approval-reassurance)は、情緒的なサポートと安心感を与えたり、ヘルパーがクライエントに共感していることや理解していることを示したり、クライエントの感情(フィーリング)が正常であり当然のものだということを示唆したりするためにしばしば使われる有益なスキルである。重要なのは、クライエントに探求を促し、関心事について深いところまで話しても大丈夫だと感じてもらうために、是認-保証を使うということである。(p.155)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
是認-保証は探求段階で使われるため、探求に役立つように使われる必要があります。
自分のことを話すのに抵抗があるとき、クライエントがヘルパーに話しても大丈夫と思えなければ、自分のことを話すのは難しくなります。
行動分析学的に言えば、クライエントが自分のことを話す行動が強化される必要があるということでしょう。それを実現するスキルの1つが是認-保証になります。
是認-保証の注意点としては、『ヘルピング・スキル第2版』で次のように説明されています。
是認-保証が、不安や苦しみを軽減したり、感情(フィーリング)を軽視したり否認したりするのに使われるなら、不適切である。(p.156-157)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
探求段階は探求することが目的なので、それを妨げるようなものは不適切ということです。
不安や苦しみといったネガティブな感情を十分に体験することは、ヘルピング・プロセスにおいて重要なものと考えられます。
そのため、感情を軽視したり否認したりすることは、ヘルピング・プロセスでは逆効果になってしまうでしょう。
是認-保証を使うときは、クライエントがしっかりと自分の感情を探求できるようにサポートすることが探求段階の目的であることを意識する必要があります。
こういう注意点に気をつけながら、是認-保証をうまく使っていくことが必要です。
「閉じられた質問」スキルの使い方
閉じられた質問は開かれた質問とセットで言われることが多い質問方法です。ヘルピングスキルでは、この閉じられた質問も重要な役割を果たします。
『ヘルピング・スキル第2版』に書かれている閉じられた質問の使い方は次のようなものです。
閉じられた質問(closed questions)は、1~2語の回答(「はい」「いいえ」、あるいは確認)を求め、データや情報を集めるために使われる。閉じられた質問は具体的な情報を求めることができる。(p.158)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
閉じられた質問は、例えば一緒に住んでいる家族がいるかどうか、仕事をしているかどうか、などの情報を知るために役に立ちます。
その他にも、ヘルパーの理解があっているかを確認するときも、「こういう理解でいいですか?」のように使うことができます。
閉じられた質問を連続で使いすぎると、問い詰められているように感じてしまうことがあるので、使い方と同時にどれくらい使うかについても意識する必要があります。
開かれた質問もそうですが、閉じられた質問はヘルパーの個人的な興味に基づいて使われるリスクがあるので、目的をしっかりと意識して使うことが重要です。
閉じられた質問の有効な使い方で最も重要な場面の1つは、危険が迫っているときです。
閉じられた質問が重要となる状況の1つは危機的状況の最中である。危険が迫っている場合には(例:自殺、殺人、暴力、あるいはあらゆる種類の虐待、重篤な精神疾患に至る補償喪失[decompensation]といった可能性)、ヘルピングから危機介入へとプロセスを変更する。(p.159)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルパーは何よりもクライエントや他者の生命、安全を最優先にしなければならないので、そのリスクをアセスメントするために閉じられた質問を使っていきます。
もしリスクが明らかになったときには、危機介入に移行する必要があります。
探求のための自己開示
ヘルパーの自己開示は内容とタイミングが適切であれば、クライエントのためになることもあります。
自己開示は探求段階だけでなく、洞察段階と行動(アクション)段階でも使われます。ここでは、探求段階の自己開示について説明します。
探求段階の自己開示は、『ヘルピング・スキル第2版』によると3つのタイプに分けられます。
探求段階のために適切な3つのタイプの自己開示(self-disclosures)がある。類似性の開示、情報の開示、および感情(フィーリング)の開示である。(p.161)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
3つのタイプの自己開示をそれぞれ見ていきましょう。
類似性の自己開示
クライエントとヘルパーの類似性に関連した自己開示が、類似性の自己開示です。
ヘルパーがクライエントと同じ経験をしたことがあるときなどに、類似性の自己開示が使われます。
『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
類似性を開示することによって、ヘルパーは是認-保証を伝えることができる。(中略)誰かが似たような経験をしたことがあると聞けば、クライエントは自分の経験が正常であり、自分は独りぼっちではないと感じることができる。(p.162)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
類似性の自己開示は是認-保証としても機能するということです。
もし「自分だけがおかしいんだ」とクライエントが思っていたとしたら、ヘルパーが同じ経験をしていることはクライエントにとって安心材料になるかもしれません。
これは日常生活で経験したり、そういうことを言っている人を見たりすることがある人は多いと思います。「自分だけじゃなかったんだ、良かった」というものです。
ただ、ヘルピングは日常会話ではないので、ヘルパーが開示したいから開示するのではなく、その開示がクライエントに役に立つと判断できるときにだけ開示することが必要です。
情報の自己開示
情報の自己開示は、ヘルパーに関する情報を開示するものです。
『ヘルピング・スキル第2版』では次のように説明しています。
個人的なことを開示することは、ときにヘルパー自身について、およびヘルパーの専門的な経歴、および受けてきた訓練を簡潔にクライエントに伝えるのに適している場合もある。(p.162)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
クライエントの中には、ヘルパー(あるいはカウンセラー、セラピスト)の経歴や専門性などを知りたがる人がいます。
これは、医療にかかるときに主治医の専門を聞こうとするのと同じですね。内科の病気なら内科医に診てもらいたいですからね。
あるいは、あまり経験のない医師より、ベテランの医師の方がいいということもあるかもしれません。
専門的な経歴などを聞かれたら、正直に自己開示した方がクライエントとの信頼関係を作りやすいと思います。状況によっては、なぜ知りたいのかを問うこともいいでしょう。
情報の自己開示には、別の側面もあります。
自己開示が特に重要となりうるのは、個人的な事柄や家族の事柄について外部の者に話すことを文化的に禁じられているために、問題について話すことが難しい人たちに対してである。開示することによって、ヘルパーは開示を受け入れられ期待されているということを身をもって示す。(p.163)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルパーがモデルとなって、クライエントの自己開示を促すということです。
クライエントに自分のことを話すことを強要するのではなく、明示的に促すのでもなく、ヘルパーが見本を見せることで自然と話せるようにするという効果が期待されます。
このような側面もあるので、うまく情報の自己開示を使っていくといいでしょう。
感情(フィーリング)の自己開示
感情(フィーリング)の自己開示は、ヘルパーの感情を開示するものです。これもクライエントの探求を促す目的で使用される必要があります。
『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。
感情(フィーリング)の開示は、クライエントが感じているかもしれないことを示すのに用いると良いだろう(例:「私が最初の仕事に応募したとき、面接でどんなことを言ったらよいかとビクビクしました」)。ヘルパーは、もし自分がクライエントだったらどのように感じるかを言うとよい(例:「もし私があなただったら、あなたのお父さんに怒りを感じるでしょう」)。あるいは、ヘルパーはクライエントが話しているのを聞いて自分がどのように感じているかを述べてもよいだろう(「私はあなたのお父さんに怒りを感じました」)。(p.163)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
クライエントが自分の感情をうまく言葉にできなかったり、何を感じているかがわからなかったりするとき、感情の自己開示が呼び水となって、クライエントが感情について探求を始めることがあります。
ヘルパーの自己開示と同じであれば、「自分もそんな感じ」のような反応をするかもしれません。
逆に、ヘルパーとは違う感情を体験していたとしたら、「自分はこんな感じ」と話してくれるかもしれません。
どちらにしても、感情の自己開示は探求段階のスキルなので、クライエントの探求を促すことを目的として使用する必要があります。
「沈黙」スキルの使い方
クライエントは考えながら話をするものです。考えている最中は探求している最中であるので、それを遮るようなことは控える必要があります。
そのため、「沈黙」スキルが重要な役割を果たします。
『ヘルピング・スキル第2版』には、「沈黙」スキルについて次のように書かれています。
沈黙(silence)はヘルパーもクライエントも話していないときの休止(ポーズ)のことである。(中略)もしクライエントが何かを話している最中に話すのをやめてしまい、明らかにまだその感情(フィーリング)と向き合っている途中なら、ヘルパーは妨害をしないでクライエントに考えさせるために沈黙するのがよいだろう。(p.164-165)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
クライエントには考える時間、探求する時間が必要です。それはヘルパーとの対話だけでなく、クライエント自身の中でも行われます。
答えに困っているのであれば、ヘルパーは助け船を出す必要がありますが、クライエントが探求しているのであれば、沈黙して待つ必要があります。
沈黙はヘルパーにとって居心地の悪い時間になるかもしれませんが、クライエントにとっては必要な時間です。
ただ、長すぎる沈黙は効果がなくなることもあるので、クライエントをよく観察して、沈黙を続けるか、別のスキルを使うかを判断するといいでしょう。
まとめ
情報、是認-保証、閉じられた質問、自己開示、沈黙をまとめると次のよういなります。
これまで見てきたように、それぞれのスキルには重要な役割があります。そして、これらのスキルを身につけることで、ヘルパーとしてのレパートリーが拡大することになります。
より多くのスキルを持ち、それを効果的に使うことができるようになれば、より良い支援を行うことができます。
ヘルピングスキルは基礎的なスキルなので、支援者にとっては練習して身につけておくといいスキルの1つだと思います。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』 には、ここで紹介した以外にも、実際に使用例などが書かれています。