カウンセリングや心理療法では、クライエントの感情が重要な要素の1つとされています。ここについては、多くの心理職が同意するところだと思います。
重要なものであるクライエントの感情の感情をどう扱えばいいか迷ったり、うまく扱えないと感じていたりしませんか?
完璧なことができるカウンセラーやセラピストはいないので、誰もが失敗したり、迷ったり、悩んだりしていると思います。スーパーヴィジョンや事例検討なので、それを解決している人も多いでしょう。
クライエントの感情を扱うことについては、ヘルピングスキルに「感情(フィーリング)の反映」と呼ばれるスキルがあります。
そのスキルを身につけることができれば、より良い支援ができるようになるはずです。
心理職としてさらにステップアップするために、ヘルピングスキルの感情の反映を見ていきましょう。
感情(フィーリング)の反映とは?
ヘルピング・プロセスは探求段階、洞察段階、行動(アクション)段階の3段階で構成されています。それぞれの段階で、強調されるスキルが異なっています。
感情の反映は、ヘルピング・プロセスの最初の段階である探求段階で主に使われるヘルピングスキルの1つです。
ヘルピングについては、「ヘルピングスキルにおける「ヘルピング」とは何か?」にまとめてあります。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』には、感情の反映について次のように書かれています。
感情(フィーリング)の反映(reflection of feeling)は、クライエントの感情(フィーリング)を強調しながら、そのクライエントの陳述を繰り返したり、言い直すことである。(p.129)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
「先生から怒られて、落ち込んでいるんですね」のようなものが「感情の反映」ということです。
この感情の反映は意外と難しく、練習が重要になるスキルと言えます。
言い換えが事実や内容を強調するのに対して、感情の反映は感情を強調するものです。ここが言い換えと感情の反映が異なるところです。
感情の反映は探求段階のスキルとされています。その目的はクライエントに探求を促すことになります。『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。
ヘルパーは反映を使って、クライエントがより深いレベルで感情(フィーリング)を特定し、明確にし、体験するよう援助する。(p.130)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
クライエントが自分の感情を探求することを助けるために、感情の反映が使用されます。
感情の反映と共感との関係
感情の反映は共感とも関係があります。共感はカウンセリング・心理療法で重要なものなので、感情の反映との関係を知っておくといいでしょう。
『ヘルピング・スキル第2版』では、感情の反映と共感は異なるものであるとされています。
共感は他人の体験に同調する態度や方法である。もし、適切に伝えれば、感情(フィーリング)の反映は共感の表明となりうるが、技術的に正しい感情(フィーリング)の反映であっても、タイミングを間違えたり、不適切なやり方で伝えたりすると共感的でないものになりうる。(p.134)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
行動分析学的な視点で説明すれば、感情の反映と共感とでは「機能」が違うということになります。
もう少し別の言い方をすれば、感情の反映も、共感も、その影響力によって規定されていると言えるでしょう。
ポイントは、適切に伝えたとしても感情の反映が必ず共感になるわけではないということです。これは、感情の反映の目的に共感を伝えることが含まれていないことと関係していると思います。
さらに見方を変えれば、共感は別のカタチでも実現可能であるということでもあります。
その証拠に、『ヘルピング・スキル第2版』には次のように書かれています。
反映以外のヘルピング・スキル(例:挑戦)を使うほうが共感的となる場合もある。(p.134)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
挑戦はヘルピング・プロセスの洞察段階で使われるスキルで、クライエントの矛盾点などを指摘するものです。
矛盾店の指摘は一般的に共感的な反応とは思えませんが、それが共感的になる場合もあるということです。
感情の反映は、感情を反映するものであって、それが共感になることもあれば、ならないこともあります。共感することを目的としたスキルではないので、感情の反映を使用すれば共感になるわけではないということです。
感情の反映の使い方
『ヘルピング・スキル第2版』(p.136)には、感情の反映を学習するときには、次の2つの形式を使うことを推奨しています。
- あなたは〇〇と感じている
- あなたは〇〇なので、〇〇と感じている
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
この他にも『ヘルピング・スキル第2版』には、感情の反映に使える言い方が書かれています。
「かもしれない」や「と思えます」のように、感情を反映するときの確信度を調整することもできます。クライエントが明確に述べていない感情を反映するときは、そのような調整が必要になるでしょう。
感情の反映を使うときは、さまざまな言い方を使うことで、クライエントが探求しやすくなるようにすることが重要です。
どの感情を反映するか
クライエントが感じている感情が1つとは限りません。いくつもの感情があり、それが複雑に絡まり合っていることもあるでしょう。
ヘルパーがクライエントの言動から複数の感情を読み取ったとき、どの感情を反映すればいいのでしょうか?
『ヘルピング・スキル第2版』では、次のように述べられています。
たった1回の反映ですべての感情(フィーリング)を反映するよりも、最も顕著な感情(フィーリング)であると認知したものだけをとりあげるべきである。(p.137)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
どの感情を反映するかはヘルパーの判断によりますが、その指針は「最も顕著な感情」になります。そのため、ヘルパーはクライエントをよく観察する必要があります。
それと同時に、感情の反映を行った後の反応もよく見ることが重要です。その反応が、適切に感情の反映が行われたかを判断する材料になるからです。
感情の反映を使うときには、クライエントの言っていることだけではなく、非言語的に表現されていることも含めて、傾聴していくことが重要です。
ヘルピングスキルのかかわりと傾聴については、「【ヘルピングスキル】かかわりと傾聴で大事な10のこと」にまとめてあります。
反映する感情の情報源
感情の反映を使うには、クライエントが感じていることを知る必要があります。
どこからそれを探し出せばいいのでしょうか?
『ヘルピング・スキル第2版』によると、クライエントの感情を知るための情報源は4つあります。
クライエントがどのようなことを感じているかの手がかりは、4つの情報源から得られる。感情(フィーリング)についてのクライエント自身の描写、クライエントの話す(言語的)内容、クライエントの非言語行動、およびクライエントに対するヘルパー自身の感情(フィーリング)の投影である。(p.138)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
- クライエント自身の描写
- クライエントが話す(言語的)内容
- クライエントの非言語行動
- ヘルパーの感情の投影
この4つの情報源をうまく使って、反映する感情を見つけることになります。
クライエント自身の描写
これはクライエントが自分の感情について直接的に表明したものということなので、一番わかりやすいものです。
例えば、「テストでいい点が取れるか不安なんです」と言ったら、クライエントの感じていることは「不安」とわかります。
ただ、クライエントが使った言葉をそのまま反映するよりも、違う言葉を使った方がいいそうです。
クライエントが使った感情(フィーリング)語をそのまま繰り返すよりも類義語を使うことを私は勧めたい。それにより、クライエントは感情(フィーリング)に最もふさわしいことばを見つけることができ、その感情(フィーリング)の異なった部分も体験できる。(p.142)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
ヘルパーの語彙力が試されるところでもありそうですね。どれだけ豊かに感情を表現する言葉を持ち合わせているかで、感情の反映の効果が変わってくるかもしれません。
『ヘルピング・スキル第2版』には、感情語のリストがあるので、それを参考にするといいと思います。
クライエントの話す(言語的)内容
ヘルピング・プロセスでは、クライエントはいろいろなことを話します。直接的に感情を表現する言葉を使っていなくても、その内容から感情を推測することができます。
「ずっと欲しかったものが手に入った」とクライエントが話したとしたら、「喜び」や「嬉しさ」を感じている可能性があります。
このように、クライエントの話す内容は情報源の1つとして使えます。
クライエントの非言語行動
クライエントは言葉以外にも多くのことを表現しています。表情やしぐさなども非言語行動に含まれます。
クライエントが話しているときに笑顔を見せていたら「楽しい」のかもしれません。泣いていたら「悲しい」のかもしれません。
クライエントが話す内容だけでなく、クライエントの非言語行動にも注目して、クライエントの感情を知ろうとする努力が重要です。
ヘルパーの感情の投影
感情があるのはクライエントだけではなく、ヘルパー自身にも感情があります。その感情を情報源として利用するということです。
『ヘルピング・スキル第2版』の説明は次のようなものです。
もし自分がその状況にいたとすればどのように感じるだろうか、と問うことである。(p.142-143)
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』
自分がクライエントと同じ経験をしたとしたら、どう感じるかを自分に問い、その答えを情報源として使うということです。
自分とクライエントが別の人間であって、違う反応をすることを理解しながら、「仮説」として利用していくことになります。
まとめ
感情の反映は、ヘルピングスキルの中でとても重要なスキルです。
反映する感情の情報源は4つあります。
クライエントの中には、自分の感情をうまく把握できない人もいます。そのようなクライエントが十分に感情を探求できるようになるには、ヘルパーが持つ感情の反映スキルが重要になるでしょう。
ヘルピングスキルは、ここで説明したように感情の反映をスキルとしてまとめ上げ、練習可能なものにしてくれています。
『ヘルピング・スキル第2版』には、感情の反映の注意点やヘルパーが経験する問題、有益なヒント、実践演習、グループ実習もあるので、スキルアップに活用することができます。
『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』