失認の種類と責任病巣(関係する脳の領域・損傷)、失行症の評価

失認にはどのような種類があり、責任病巣(関係する脳領域・損傷)はどこなのでしょうか?

今回解説するのは7種類の失認と、失認症の評価です。

  1. 物体失認
  2. 知覚型(統覚型)失認
  3. 連合型失認
  4. 相貌失認
  5. 純粋失読
  6. 街並失認
  7. 色彩失認

それでは、失認について見ていきましょう。

失認とは何か?

失認とはどのようなものなのでしょうか?

文字からは、認識を失うことに関係するものと推測することができます。

失認は、『【ブループリント網羅】公認心理師必携テキスト』では次のように説明されています。

視覚、聴覚、触覚など、感覚モダリティごとに対象認知の障害が生じる。これらの対象認知の障害は「失認症」とよばれる。(p.222)

『公認心理師必携テキスト』

感覚モダリティごとの対象認知の障害が失認症と説明されています。

『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』では、次のようになっています。

失認は、視覚、聴覚、触覚など、ある感覚を介して対象を認知できなくなるが、他の感覚を介せばその対象を認知できる状態である。(p.44)

『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』

失認では、ある感覚では認知できなくても、他の感覚では認知できるということです。これが「感覚モダリティごとに対象認知の障害が生じる」ということなのでしょう。

このような失認は、『公認心理師必携テキスト』では視覚性失認、聴覚性失認、触覚性失認に分けられています。そのうち、視覚性失認については、いくつかの種類が書かれています。

『公認心理師必携テキスト』にある視覚性失認は、物体失認、知覚型(統覚型)失認、連合型失認、相貌失認、純粋失読、街並失認の6つです。

『精神医療・臨床心理の知識と技法』では、視覚失認、相貌失認が簡単に説明されています。

『公認心理師基礎用語集-よくわかる国試対策キーワード117』には、物体失認、相貌失認、街並失認、色彩失認が書かれています。

それぞれについて見ていきましょう。

※引用については、『公認心理師必携テキスト』をA、『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』をB、『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』をCとして、ページを示す場合は、必携テキストであれば「Ap.10」のようにします。

物体失認

物体失認は、物体の認知に関する視覚性失認です。

物体失認とは、「物体の認知障害」(Ap.222)のことで、「後頭側頭葉損傷」(Cp.63)によって生じます。

物体を認知することに障害があるから物体失認ということです。

コトバンクの説明を読むと、物体失認がどのようなものかイメージしやすくなります。

そろばんを見てもそろばんとして認知できず、振って音をたてたり手で触れて初めてそろばんであることがわかる

コトバンク

対象物自体がわからなくなっているわけではなく、あくまで視覚からその対象物を認知できないということです。

物体失認は視覚性失認であるため、視覚では失認が生じますが、視覚以外の感覚ではその物体が何かわかります。

  • 視覚による物体に認知が障害される
  • 後頭側頭葉の損傷

知覚型(統覚型)失認

知覚型(統覚型)失認とは、「形態認知の障害」(Ap.222)です。

知覚型(統覚型)失認の責任病巣は書かれていないのでわかりません。明らかにされているのかもしれませんが、手元の資料等では確認できませんでした。

  • 形態認知の障害
  • 責任病巣は記載なし

連合型失認

連合型失認とは、「形態認知は可能だが意味との連合に障害を示す」(Ap.222)もののことです。

形態認知は可能なので、知覚型(統覚型)失認がなく、対象物の意味がわからなくなるタイプの失認なのでしょう。

連合型失認についても、責任病巣は手元の資料等では確認できませんでした。

  • 意味との連合が障害
  • 責任病巣は記載なし

相貌失認

相貌失認とは、「顔をみても誰なのかわからない症状」(Ap.222)で、「紡錘状回損傷」(Cp.63)で生じます。「声を聴けば相手が誰だかわかる」(Bp.44)ことが特徴です。

『公認心理師基礎用語集』(Cp.61)によると、紡錘状回の機能は相貌認知です。

  • 顔を見ても誰かわからない
  • 相手の声を聞けば誰かわかる
  • 紡錘状回の損傷

純粋失読

失認の中に失読が入ることは不思議かもしれませんが、その説明を見ると納得できます。

純粋失読とは、「単語の認知の障害は(読むことができないために)失読とされるが、このうち視覚性の障害に由来しほかの症状を伴わないもの」(Ap.222)のことです。

視覚性の障害に由来していて他の症状を伴わないので、視覚性失認の中に入るということです。

いきなり失読と言われると不思議に思いますが、視覚性失認に入っていることは納得できると思います。

純粋失読についても、責任病巣は手元の資料等では確認できませんでした。

  • 視覚性の障害に由来して他の症状を伴わない単語認知の障害
  • 責任病巣は記載なし

街並失認

街並失認とは、「建物や風景の認知の障害」(Ap.222)で、「両側または右側頭後頭葉内側部損傷」(Cp.63)で生じます。

物体失認は後頭側頭葉でしたが、街並失認は側頭後頭葉の損傷です。

  • 建物・風景の認知の障害
  • 両側または右側頭後頭葉内側部の損傷

色彩失認

色彩失認は有斐閣の『心理学辞典』では次のように説明されています。

色彩知覚は保たれているのに色の認知に障害がある状態をいうが、色は視覚以外のモダリティで認知できないので、臨床的には、色名の知識はあるのに色を見てその色名を言うことができず、色名を聞いて該当する色をさすことができない状態となる。そのため、厳密な意味では色彩失認は存在せず、視覚-言語の離断による色彩失名辞にあたるとされている。

『心理学辞典』有斐閣

色の名前の知識がるのに、色の名前を聞いてその色を選べない、色を見てその名前を答えられない、というのが色彩失認です。

ただし、色は視覚以外で認知できないという問題もあり、純粋に色彩に対する失認が存在できるかどうかを確認することができません。

そのため、視覚-言語の繋がりが断たれていることによる障害と考えられているということです。

責任病巣は「左後頭葉」(Cp.63)です。

  • 色名の知識があるのに、色-色名を一致させられない
  • 色彩は視覚以外で認知できないため、視覚-言語の離断による色彩失名辞とされている
  • 責任病巣は左後頭葉

失認症の評価

上記のような失認症をどのように評価すればいいのでしょうか?

『公認心理師必携テキスト』には、失認症の評価についても書かれています。

視覚性認知障害の評価には標準高次視知覚検査が用いられる。標準高次視知覚検査は7つの大項目(項目省略)からなる。相貌認知については、『熟知相貌検査第2版』が日本高次脳機能障害学会から2015年に刊行されている。(p.222)

『公認心理師必携テキスト』

標準高次視知覚検査は様々な視知覚について調べることができる検査となっています。

相貌失認については、『熟知相貌検査第2版』という相貌認知に関する検査があります。

まとめ

物体失認

  • 視覚による物体に認知が障害される
  • 後頭側頭葉の損傷

知覚型(統覚型)失認

  • 形態認知の障害
  • 責任病巣は記載なし

連合型失認

  • 意味との連合が障害
  • 責任病巣は記載なし

相貌失認

  • 顔を見ても誰かわからない
  • 相手の声を聞けば誰かわかる
  • 紡錘状回の損傷

純粋失読

  • 視覚性の障害に由来して他の症状を伴わない単語認知の障害
  • 責任病巣は記載なし

街並失認

  • 建物・風景の認知の障害
  • 両側または右側頭後頭葉内側部の損傷

色彩失認

  • 色名の知識があるのに、色-色名を一致させられない
  • 色彩は視覚以外で認知できないため、視覚-言語の離断による色彩失名辞とされている
  • 責任病巣は左後頭葉

失認症の評価

  • 標準高次視知覚検査
  • 熟知相貌検査第2版