公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準

公認心理師法第42条第2項の「医師の指示」に関する運用はどのように行われるのでしょうか?その運用基準は公認心理師として知っておく必要があります。

心理職の国家資格が誕生するに当たって、多くの議論がなされたことの1つが「医師の指示」についてです。

「医師の指示」の規定については賛否両論ありますが、法律に書かれている以上、それに従うしかありません。

公認心理師法の「医師の指示」と同時に、厚生労働省・文部科学省が出している「公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準」を確認していきましょう。

公認心理師法における医師の指示

「医師の指示」については、公認心理師法第42条第2項に書かれています。

第42条第2項公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない。

公認心理師法

ここからわかるように、支援に関係する主治の医師がいる場合はその治医の指示が必須ということになっています。

当該支援に係る主治の医師」とあるので、支援とは関係ない主治医がいる場合は除外されます。これについては後述します。

公認心理師は保健医療分野に限る資格ではないので、医療機関以外で働いている場合に問題になるかもしれません。すでにきちんと主治の医師の指示を受けて支援をしているなら何も変わりませんが、そうでないなら法律に従ってやり方を変える必要があります。

公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準

公認心理師法第42条第2項の「医師の指示」については、厚生労働省・文部科学省が運用基準を公表しています。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

この運用基準は適宜見直すことになっているため、改訂されるごとに確認が必要です。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準の構成は次のようになっています。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準の構成
  1. 本運用基準の趣旨
  2. 基本的な考え方
  3. 主治の医師の有無の確認に関する事項
  4. 主治の医師から指示への対応に関する事項
  5. その他留意すべき事項

基本的な考え方までは読んでもらうとして、主治の医師の有無の確認に関する事項から見ていこうと思います。

本運用基準の趣旨

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準の趣旨は、次のようになっています。

公認心理師の専門性や自立性を損なうことのないようにすることで、公認心理師の業務が円滑に行われるようにする観点から定めるものである。

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医師の指示の関する運用基準は、公認心理師が独立性を持ち、その業務が円滑に行われるようにするための基準となっています。

この趣旨に従って、運用基準が作られています。

基本的な考え方

医師の指示に関する運用基準の基本的な考え方の1つは、要支援者(クライエント)に悪影響を与えないことを目的とするというものです。

もう1つは、公認心理師の支援の在り方に対する配慮です。

要支援者(クライエント)に悪影響を与えないこと

公認心理師が行う支援行為は、診療の補助を含む医行為には当たらないが、例えば、公認心理師の意図によるものかどうかにかかわらず、当該公認心理師が要支援者に対して、主治の医師の治療方針とは異なる支援行為を行うこと等によって、結果として要支援者の状態に効果的な改善が図られない可能性があることに鑑み、要支援者に主治の医師がある場合に、その治療方針と公認心理師の支援行為の内容との齟齬を避けるために設けられた規定である。

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ここで公認心理師が行う行為が「診療の補助を含む医行為には当たらない」ことが明言されています。これは、心理職の国家資格化で議論のポイントになったところでもあります。

医行為は医師にだけ許されたものです。診療の補助は看護師に許されたもので、医行為を補助するものです。

公認心理師が行う支援行為は業務独占資格である医師や看護師に許されたものではありませんが、主治医の治療方針と異なる支援を行ったときに、要支援者(クライエント)に悪影響を与える可能性があります。

その悪影響が起こらないようにするために、公認心理師は主治医の指示を受けることを法的義務とされています。

公認心理師の支援の在り方に対する配慮

これまでも、心理に関する支援が行われる際には、当該支援を行う者が要支援者の主治の医師の指示を受ける等、広く関係者が連携を保ちながら、要支援者に必要な支援が行われており、本運用基準は、従前より行われている心理に関する支援の在り方を大き く変えることを想定したものではない。

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多くの心理職は、公認心理師法が成立する以前から、医療との連携を重視してきたと思います。支援に関係する主治医がいる場合は、その主治医と連携して支援を行うように努めてきたと思います。

公認心理師法第42条第2項の「医師の指示」はそれを明文化して、法的義務にしたと考えることができます。

そのような支援の在り方が公認心理師が誕生することによって大きく変わるわけではないというのが、医師の指示に関する運用基準の基本的な考え方となっています。

ただし、「大きく変えることを想定したものではない」と書かれているため、全く変わらないというわけではないことを意識する必要もあります。

主治の医師の有無の確認に関する事項

支援に関する医師の指示を受けるためには、まず主治の医師がいるかどうかを確認する必要があります。

明確に医療にかかっていることを教えてくれるクライエントもいれば、そうではないクライエントもいます。

主治の医師の有無の確認

主治医の有無の確認については、基本的に次のようになっています。

公認心理師は、把握された要支援者の状況から、要支援者に主治の医師があることが合理的に推測される場合には、その有無を確認するものとする。

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すべてのクライエントについて主治医がいるかを確認する必要はなく、主治医がいることが合理的に推測される場合にその有無を確認する必要があります。

例えば、クライエントが「うつって言われて」と話したとしたら、それが医師に言われたのか、家族や知り合いなどに言われたのかを確認する必要があるでしょう。

もし医師から「うつ」と言われたとしたら、主治医がいる可能性があるので、さらなる確認が公認心理師には求められると考えられます。

主治の医師に該当するかの判断

その医師が主治医であるかは公認心理師が判断することになります。

主治の医師に該当するかどうかについては、要支援者の意向も踏まえつつ、一義的には公認心理師が判断するものとする。

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主治医に該当するかの判断は難しいケースもあるかもしれませんが、その判断も公認心理師として責任をもって行うことが求められます。

医師の指示について書かれた公認心理師法第42条第2項に違反した場合、資格の登録取り消しや名称使用停止の処分を受けることもあるため、注意が必要です。

支援に関わらない傷病に係る主治医がいる場合

クライエントに主治医はいても、それが支援に関係のない傷病の主治医ということもあります。それについては、次のように書かれています。

要支援者に、心理に関する支援に直接関わらない傷病に係る主治医がいる場合に、当該主治医を主治の医師に当たらないと判断することは差し支えない。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

これは、「当該支援に係る」という部分を明確にしたということなのかもしれません。「当該支援に係る」ものでなければ、その治療をしている医師の指示を受ける必要はないということです。

例えば、糖尿病に関する主治医がいるクライエントが、職場の人間関係の相談で公認心理師のところを訪れたとします。この場合は、職場の人間関係と糖尿病の治療は関係ないので、主治医の指示を受ける必要はないと考えられます。

しかし、そのクライエントが「糖尿病が悪化しないか心配」と話し、そのことに関する支援を行うことになったとしたら、主治医の指示を受ける必要があると言えます。

判断に迷う場合は、支援に関する指示を受けた方がいいか、あるいは何か指示はないかということを医師に確認するといいかもしれません。

主治の医師の有無を確認する相手

誰に主治の医師の有無を確認するかということについても、運用基準に書かれています。

原則として要支援者本人に直接行うものとする。要支援者本人に対する確認が難しい場合には、要支援者本人の状態や状況を踏まえ、その家族等に主治の医師の有無を確認することも考えられる。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

基本的にはクライエント本人に確認する必要があります。これは主治医から指示をもらう必要があるため、どちらにしてもクライエント本人と話し合う必要があるので、特に問題はないと思われます。

ただ、クライエントが子どもなどの場合は、家族等に確認をする必要もあるでしょう。

主治の医師からの指示への対応に関する事項

主治の医師からの指示への対応は5つに分かれています。それぞれついて見ていきましょう。

主治の医師からの指示の趣旨

主治の医師からの指示は、医師の掌る医療及び保健指導の観点から行われるものであり、公認心理師は、合理的な理由がある場合を除き、主治の医師の指示を尊重するものとする。

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原則としては、医師の指示に従わなければいけませんが、合理的な理由がある場合には指示に従わない余地も残されているようです。

ただし、公認心理師は連携が義務づけられているので、一方的に従わないのではなく、主治医に対して問い合わせるなどして、公認心理師としての判断を伝える必要はあるでしょう。

主治の医師からの指示を受ける方法

主治医から指示を受ける方法は、公認心理師と主治の医師が同じ医療機関等にいる場合と、そうではない場合で異なります

公認心理師と医師が同じ医療機関にいる場合については、次のように書かれています。

主治の医師の治療方針と公認心理師の支援行為とが一体となって対応することが必要である。このため、公認心理師は、当該医療機関における連携方法により、主治の医師の指示を受け、支援行為を行うものする。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

これは今でも普通に行われていることだと思うので、主治の医師と同じ医療機関で働いている場合には、今まで通りに支援を行っていけばいいということになるでしょう。

公認心理師と主治の医師が同じ医療機関にいなかった場合については、次のように書かれています。

要支援者に主治の医師があることが確認できた場合は、公認心理師は要支援者の安全を確保する観点から、当該要支援者の状況に関する情報等を当該主治の医師に提供する等、当該主治の医師と密接な連携を保ち、その指示を受けるものとする。
その際、公認心理師は、要支援者に対し、当該主治の医師による診療の情報や必要な支援の内容についての指示を文書で提供してもらうよう依頼することが望ましい。

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保健・医療分野以外での医師の指示はこれに該当することになると思います。

主治医に情報を提供して、文書で指示を受けられるように要支援者にお願いすることになります。指示を文書にしてもらうのは、言った言わない問題が起こらないようにするためにも、つまり自分を守るためにも必要です。

主治医と直接連絡を取るときの注意点は、次のようになっています。

公認心理師が、主治の医師に直接連絡を取る際は、要支援者本人(要支援者が未成年等の場合はその家族等)の同意を得た上で行うものとする。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

公認心理師には秘密保持義務が課せられていて、それに違反した場合の罰則規定も設けられているため、クライエント本人の同意を得ることは必須です。

実際問題として、情報を伝えてもいいと患者が医師に言わない限り、連絡しても受けてくれないと思うので、同意を得ることは必須になるでしょう。

指示への対応について

主治医から指示を受けた後、どのように対応するかも運用基準に書いてあります。

公認心理師が、心理に関する知識を踏まえた専門性に基づき、主治の医師の治療方針とは異なる支援行為を行った場合、合理的な理由がある場合は、直ちに法第42条第2項に違反となるものではない。ただし、この場合においても、当該主治の医師と十分な連携を保ち、要支援者の状態が悪化することのないよう配慮することとする。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

原則として、公認心理師は主治医の指示に従わなければ行けません。ただし、合理的な理由があれば従わなくても違反にならないかもしれないということです。

それでも連携を保つことは求められているので、「あんな医者の言うことなんか聞いてられるか!」みたいに、一方的に切り捨てるようなやり方はやってはいけません。

主治医の指示とは違うことができるとはいえ、その説明責任は公認心理師側にあります。

公認心理師が主治の医師の指示と異なる方針に基づき支援行為を行った場合は、当該支援行為に関する説明責任は当該公認心理師が負うものであることに留意することとする。

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公認心理師は医師の指示を受けることが法的義務にされているので、それに従わない場合は、その説明責任を負うことは当然です。

「なんとなく」という曖昧なものではなく、心理学的な判断に基づいた支援を行うことが暗に求められていると言えるかもしれません。

また、医師の指示の記録についても書かれています。

公認心理師は、主治の医師より指示を受けた場合は、その日時、内容及び次回指示の要否について記録するものとする。

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ほとんどの心理職は記録をしっかりとつけていると思いますが、医師の指示に関しては運用基準でも明確に書かれているので注意が必要です。

公認心理師としては医師の指示に従おうとしても、所属機関の長の判断によって、それができない場合もあるでしょう。

所属機関の長が医師とは異なる見解を示した場合については、次のように書かれています。

公認心理師が所属する機関の長が、要支援者に対する支援内容について、要支援者の主治の医師の指示と異なる見解を示した場合、それぞれの見解の意図をよく確認し、要支援者の状態の改善に向けて、関係者が連携して支援にあたることができるよう留意することとする。

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できれば起こってほしくない状況ですが、実際には起こり得ることです。その場合は関係者が連携して支援できるように努力する必要があります。

公認心理師が主治の医師の指示に納得しているのであれば、なぜそれが必要なのかをきちんと説明する役割を果たすことができると思います。

主治の医師からの指示を受けなくてもよい場合

医師の指示に関する運用基準には、主治の医師からの指示を受けなくてもいい場合についても書いてあります。

以下のような場合においては、主治の医師からの指示を受ける必要はない。

  • 心理に関する支援とは異なる相談、助言、指導その他の援助を行う場合
  • こころの健康についての一般的な知識の提供を行う場合

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「心理に関する支援とは異なる相談、助言、指導その他の援助を行う場合」というのは、おそらく福祉制度の利用を希望したクライエントに対して、相談窓口等を紹介するなどが該当すると思われます。

「心の健康についての一般的な知識の提供を行う場合」は、一般的に言われていることなどを伝えることを指すと思われます。

医師の指示を受けたくても、災害等で受けられない場合もあります。それについては、次のように書かれています。

災害時等、直ちに主治の医師との連絡を行うことができない状況下においては、必ずしも指示を受けることを優先する必要はない。ただし、指示を受けなかった場合は、後日、主治の医師に支援行為の内容及び要支援者の状況について適切な情報共有等を行うことが望ましい。

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災害時等では、医師の指示を受けることが現実的ではなく、支援を優先させる必要があることもあります。

その場合は公認心理師の判断で支援を行ってもいいということになっています。ただし、その場合でも後から主治の医師に情報を伝えるなどして連携する必要があります。

要支援者が主治の医師の関与を望まない場合

クライエントが主治医の関与を望まない場合も十分に考えられます。

医師の指示が得られない場合に支援を拒否できる環境であれば、「指示がなければできません」と言えるかもしれませんが、それができない環境では難しい問題になるでしょう。

クライエントが主治医の関与を望まない場合については、次のように書かれています。

公認心理師は、要支援者の心情に配慮しつつ、主治の医師からの指示の必要性等について丁寧に説明を行うものとする。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

クライエントが主治医の関与を望まない場合でも、きちんと説明して、指示を受けられるようにすることが求められるということなのでしょう。

主治医の指示が必要であることをきちんと説明したかどうかが重要なポイントとなるので、ここでも記録をつけることが重要です。

その他留意すべき事項

その他留意すべき事項には2点あり、そのうち1点は運用基準を適宜見直すことが書かれています。

もう1点は、公認心理師の法的立場に関係するものです。

公認心理師は、主治の医師からの指示の有無にかかわらず、診療及び服薬指導をすることはできない。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)

公認心理師は診療と服薬指導を行うことはできません。

まとめ

ここで紹介した医師の指示に関する運用基準は、2018年(平成30年)1月31日付のものです。適宜見直すことになっているので、公認心理師資格を取得した後も確認が必要です。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準をまとめると次のようになります。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準まとめ
  • 主治医がいると推測される場合は確認する
  • 主治医かどうかは公認心理師が一義的に判断する
  • 支援に直接関わらない傷病に係る医師は、主治医に当たらないと判断していい
  • 合理的な理由がある場合を除き、主治医の指示を尊重する
  • 指示は文書で提供してもらうように依頼する
  • 直接連絡を取る場合は同意を得る
  • 主治医の指示と異なる支援を行った場合は、公認心理師に説明責任がある
  • 指示について記録する
  • 心理に関する支援と関係ない場合、一般的な知識を提供する場合は指示を受けなくていい
  • 災害時等は指示を受けなくていいが、後で情報共有をする

この運用基準自体に、日本精神神経学会が見直しを求める見解(PDF)を出しているので、もしかしたら早い段階で見直しがなされるかもしれません。

公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準(PDFファイル)