心理療法・カウンセリングには、さまざまな方法・学派があります。代表的なものとして次の4つを挙げることができます。
- 精神分析的心理療法
- 認知行動療法
- クライエント中心療法
- 家族療法
それぞれの心理療法・カウンセリングの中でさらに細分化されることもあり、全てを網羅することは現実的ではないため、ここでは上記の4つについて概要を説明します。
精神分析的心理療法
精神分析的心理療法はフロイトの精神分析に端を発した心理療法のことを指します。
「力動論に基づく心理療法」など、別の呼び方もありますが、ここでは「精神分析的心理療法」という表現を使います。
『公認心理師必携テキスト』では、次のように説明されています。
フロイトFreud, S.によって19世紀末に確立された精神分析と、その後、彼の後継者たちによって修正・追加された理論と方法を総称して、力動論に基づく心理療法(以下、「精神力動アプローチ」)という。(p.554)
『公認心理師必携テキスト』
一般的に、心理学と言ったとき、精神分析的心理療法をイメージされることが多いかもしれません。
フロイトの確立した精神分析は、後継者たちによって発展を続けています。それらをまとめて精神分析的心理療法(力動論に基づく心理療法)と呼びます。
精神分析的心理療法は「無意識」というものを重視するという特徴があります。他にも人格や心の構造に関する理論を持っていることも特徴と言えます。
そのような精神分析的心理療法(力動論に基づく心理療法)の特徴として、『公認心理師必携テキスト』(p.554-555)には次の6つが挙げられています。
- 無意識の働きの重視
- 人格や心の構造の局所論的とらえ方
- 力動的な考え方
- 心的エネルギーという考え方
- 人格と環境の相互関係の重視
- 発達過程の重視
『公認心理師必携テキスト』
これらの特徴を見てわかるように、精神分析的心理療法は包括的な理論体系を持っています。
精神分析的心理療法の技法としては、自由連想法、抵抗分析、転移分析、解釈、徹底操作などがあります。
認知行動療法
認知行動療法は行動的技法と認知的技法を用いた治療アプローチの総称のことです。厳密には認知療法と行動療法は別のものですが、大きな枠組みとして「認知行動療法」が多く使われています。
有斐閣の『心理学辞典』には、認知行動療法について次のように書かれています。
行動や情動の問題に加え、認知的な問題をも治療の標的とし、治療アプローチとしてこれまで実証的にその効果が確認されている行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて用いることによって問題の改善を図ろうとする治療アプローチを総称して、認知行動療法という。(p.663)
『心理学辞典』有斐閣
認知行動療法には、行動療法の系譜である行動的技法と、認知療法の系譜である認知療法があります。それらの技法を問題に対して効果的になるように組み合わせて用いることが認知行動療法の特徴の1つです。
また、「実証的であること」を重視していることも認知行動療法の特徴と言えます。そのため、エビデンスという視点では認知行動療法が推奨されることが多くなっています。
行動療法はパヴロフ(Pavlov, I.)の古典的条件づけなどが起源となっています。
認知療法はアーロン・ベック(Beck, A. T.)が創始した心理療法です。
認知行動療法では、環境と個人の相互作用を重視し、個人を認知・行動・感情・身体反応の4つに分け、5つの要素の相互作用に基づいてアセスメントが行われます。
代表的な技法として、問題解決法、認知再構成法(コラム法)、エクスポージャー(曝露)などがあります。
クライエント中心療法
クライエント中心療法(来談者中心療法)はロジャーズ(Rogers, C. R.)が創始した心理療法・カウンセリングです。心理学の中では人間性心理学に位置づけられています。
有斐閣の『心理学辞典』では、クライエント中心療法について次のように書かれています。
ロジャーズ(Rogers, C. R.)により創始された心理療法で、その初期(1940年代)には非指示的精神療法とよばれていた。(中略)「クライエント中心」の態度によって、クライエントは本来の力を十分に発揮し問題を解決していく、と考えたのである。その後、彼は一般の人々の自己成長を目的としたエンカウンター・グループに力を注ぎ、1974年にはそれまでのすべての活動をまとめて、自らの立場を人間中心のアプローチ(person-centered approach)とよんだ。(p.203)
『心理学辞典』有斐閣
一般に浸透しているカウンセリングのイメージは、傾聴を中心としたクライエント中心療法と言えるでしょう。
共感的理解や無条件の肯定的配慮などは、クライエント中心療法の「パーソナリティ変容のための6条件」に含まれています。
『公認心理師必携テキスト』(p.332)では、『ロジャーズ選集(上)』(カーシェンバウム Hほか編:セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件, ロジャース選集(上)(伊藤博ほか監訳), p.267. 誠信書房, 2001)を引用して、次のようにまとめています。
ロジャーズの6条件
- 2人の人が心理的な接触をもっていること
- 第1の人(クライエントと呼ぶことにする)は、不一致(incongruence)の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にあること
- 第2の人(セラピストと呼ぶことにする)は、その関係の中で一致しており(congruence)、統合して(integrated)いること
- セラピストは、クライエントに対して無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)を経験していること
- セラピストは、クライエントの内的照合枠(internal frame of reference)を共感的に理解(empathic understanding)しており、この経験をクライエントに伝えようと努めていること
- セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮が、最低限クライエントに伝わっていること
『公認心理師必携テキスト』
この6条件のうち、2~3がセラピスト側の条件で、自己一致(純粋性)、無条件の肯定的配慮、共感的理解と呼ばれます。
クライエント中心療法では、クライエントは理想自己と現実自己が不一致状態にあると想定されています。その不一致状態が上記の6条件が揃うことによって一致状態になり、心理的不適応が解消されるとされています。
家族療法
家族療法は、個人ではなく、家族を対象として心理療法のことです。
有斐閣の『心理学辞典』には次のように説明されています。
家族療法は、家族集団を研究と治療の単位として扱い、個人の問題を家族という脈絡のなかで捉えようとする。(p.120)
『心理学辞典』有斐閣
家族療法と言えば、家族システムという捉え方が有名ですが、『心理学辞典』の説明によれば「個人の問題を家族という脈略のなかで捉えようとする」ものとなっています。
家族を対象とした心理療法・カウンセリングはさまざまな学派で実践され、発展してきています。それらのことを家族療法と呼びます。精神分析的心理療法、認知行動療法、クライエント中心療法とは異なり、心理療法・カウンセリングの形態と捉えるといいのかもしれません。
理論的背景については、有斐閣の『心理学辞典』で次のように説明されています。
家族療法はその出発点においては、おもに精神分析的な家族力動理論を根拠にしていたが、やがて一般システム理論や、対人関係論、学習理論、行動理論などさまざまな理論を取り込み、現在では多種多様な理論的枠組をもった治療的アプローチである。(p.120)
『心理学辞典』有斐閣
また、『家族療法入門-システムズ・アプローチの理論と実際』には、次のように書かれています。
家族療法を大きく分類すると、精神分析的、行動学的、そしてシステム的家族療法に分類することができる。(p.5)
『家族療法入門』
このように、家族療法は1つの理論とその発展というものではなく、さまざまな理論的背景を持つ心理療法が家族を対象にしていると捉えることができます。
ただ、『公認心理師必携テキスト』(p.333-334)では、家族療法の説明としてシステム論的家族療法を中心としているため、一般的に家族療法と言えばシステム論的家族療法と言えるのかもしれません。
『公認心理師必携テキスト』で紹介されている家族療法の理論は3つあります。
- 多世代理論(ボーエン)
- 構造派理論(ミニューチン)
- コミュニケーション理論(MRI;mental research institute)
家族療法で代表的な理論としては、この3つがよく紹介されています。しかし、家族療法はそれ以外にも精神分析的なもの、行動論的なものなどさまざまなものが存在しています。