認知的均衡理論(バランス理論)、認知的不協和理論、認知的斉合性理論

人の態度変容について、認知的斉合性理論(認知的一貫性理論)、認知的均衡理論(バランス理論)、認知的不協和理論と呼ばれるものがあります。

これらの理論は一般的にも有名ですが、間違って覚えていたり、混同してしまっていたりする人もいると思います。

今回は、認知的斉合性理論(認知的一貫性理論)、認知的均衡理論(バランス理論)、認知的不協和理論について説明します。

認知的斉合性理論(認知的一貫性理論)

認知的斉合性理論(認知的一貫性理論)とはどのようなものなのでしょうか?

認知的斉合性理論について、『公認心理師必携テキスト』には次のように書かれています。

態度変容については、認知的一貫性(斉合性)理論(cognitive consistency theory)の「人はいつも同じでありたいという認知の一貫性を保ちたい」という前提のもと、認知的均衡理論(バランス理論)と認知的不協和理論によって説明されている。(p.236)

『公認心理師必携テキスト』

認知的斉合性理論は、「認知の一貫性を保ちたい」という前提に立った理論となっています。

そして、認知的均衡理論(バランス理論)と認知的不協和理論は、認知的斉合性理論の中に含まれています。

この前提について、有斐閣の『心理学辞典』には次のような記述があります。

この斉合性追求の動機づけ、逆にいえば、不斉合性低減(inconsistency reduction)の動機づけが認知的斉合性理論の最も基本的な仮定である。(p.666)

『心理学辞典』有斐閣

斉合性追求の動機づけは「仮定」であるとされています。この仮定が正しいかどうかについては後述しますが、この仮定に基づいて、認知的均衡理論(バランス理論)と認知的不協和理論が提唱されています。

認知的均衡理論(バランス理論)

認知的均衡理論は、バランス理論という呼び方の方が有名な気がします。これはわかりやすいものなので、恋愛系などのポップな心理学的な本とかにも紹介されていることもあります。

認知的均衡理論(バランス理論)はハイダー(Heider, F.)が提唱したものです。

認知的均衡理論(バランス理論)に登場するのは、自身、対象、他者です。それらの三者関係を扱っています。

  • 自身が他者を好きなのか、嫌いなのか
  • 自身が対象を好きなのか、嫌いなのか
  • 他者が対象を好きなのか、嫌いなのか

この3つの要素の組み合わせによって、認知的な均衡(バランス)が取れているかどうかで、態度変容が生じるかどうかが決まります。

好きをプラス、嫌いをマイナスとして、それらを掛け算してプラスになるときが均衡している状態であり、マイナスになるときが不均衡である状態であるとされます。

そして、不均衡の状態のときに、均衡の状態になるように、つまり掛け算の結果がプラスになるように態度変容が起こります。

例えば、自身が対象を好き(プラス)で、他者も好き(プラス)だったとします。このとき、他者が対象を嫌い(マイナス)だとしたら、掛け算の結果がマイナスになります。

プラス×プラス×マイナス=マイナス

これは不均衡な状態なので、対象を嫌いになるか、他者を嫌いになることで均衡した状態になるように態度変容が起こります。

認知的不協和理論

認知的不協和理論は、フェスティンガー(Festinger, L.)によるものです。『公認心理師必携テキスト』では、次のように説明されています。

フェスティンガー Festinger, L.は、自分自身の2つの態度や行動が矛盾する場合に認知的な不協和が発生し、その不協和を解消するために、態度変容するという認知的不協和理論を提唱している。(p.237)

『公認心理師必携テキスト』

自分自身の2つの態度や行動に関する態度変容を説明したものが、認知的不協和理論ということです。

これは、言っていることとやっていることが矛盾している場合などに適用される理論です。

例えば、「健康のために運動した方がいい」と言っている人が、運動していなかったとします。言っていることとやっていることが矛盾しているので不協和が生じることになります。そのため、その不協和を解消する必要が出てきます。

このとき、「健康じゃなくたっていいし」みたいに考えを変えたとしたら、不協和が解消されます。

不協和が起きやすい状況として、フェスティンガーは次の5つを例示しています(『心理学辞典』有斐閣)。

  1. 決定後
  2. 強制的承諾
  3. 情報への偶発的・無意図的接触
  4. 社会的不一致
  5. 現実と信念・感情との食い違い

『心理学辞典』有斐閣(p.667)

これらの状況において不協和が起きやすいとされています。

認知的な不協和が生じたとき、認知的不協和理論に従ってその不協和が低減されることになります。

有斐閣の『心理学辞典』によると、理論的な不協和の低減法には次のようなものがあります。

  1. 不協和な関係にある認知要素の一方を変化し相互に協和的関係にすること
  2. 不協和な認知要素の過小評価と協和的な認知要素の過大評価
  3. 新しい協和的認知要素の追加

『心理学辞典』有斐閣(p.667)

不協和を起こしている認知要素の変更、過小評価・過大評価、新しい協和的な認知要素の追加という3つが、不協和の低減法として理論的に導き出されるということです。

認知的均衡理論(バランス理論)と認知的不協和理論の関係

認知的均衡理論(バランス理論)と認知的不協和理論との違いとして3点あると思われます。

登場するものの違い

認知的均衡理論(バランス理論)と認知的不協和理論は、どちらも3者の関係を扱っています。しかし、そこに登場するものが異なります。

認知的均衡理論(バランス理論)は、登場人物として2人が必要な理論です。

一方、認知的不協和理論は登場人物が自分自身の1人だけの理論です。

扱っている態度の違い

2つ目の違いは、どのような態度を扱っているかです。

認知的均衡理論(バランス理論)は好き嫌いを扱っていて、認知的不協和理論は態度や行動を扱っています。認知的不協和理論では好き嫌いを扱うこともできるということです。

認知的不協和理論の方が包括的な理論と言えるかもしれません。

不均衡・不協和を解消する方法

3つ目の違いは、不均衡あるいは不協和を解消する方法だと思います。

認知的均衡理論(バランス理論)では、三者関係の掛け算がプラスになるように態度変容するとされています。

認知的不協和理論では、新たな認知を追加したり、行動を変えたりすることで不協和を解消すると説明されています。

認知的斉合性理論(認知的一貫性理論)の問題点

心理学的に重要な認知的斉合性理論(認知的一貫性理論)ですが、問題点も存在しています。

その問題点について、有斐閣の『心理学辞典』には次のように書かれています。

(1)不斉合性低減の動機づけはいつでも誰にでも生ずるとは限らず、(2)その動機が他の動機と競合する場合があり、(3)当初から不斉合性の低減法として複数の様式が仮定されている、という理論検証上の難問がある。(p.666)

『心理学辞典』有斐閣

認知的斉合性理論の前提である「不斉合性低減の動機づけ」が必ず存在しているとは言えないというのは、実証的にどうなのかわかりませんが、経験的には納得できると思います。

この前提が崩れるとしたら、認知的斉合性理論は足元から崩れることになるでしょう。

ただし、不斉合性低減の動機づけが一切ないということではなく、その動機づけが生じるときと生じないときがあるということを意味していると思います。

そのため、不斉合性低減の動機づけが生じる条件などを含めた理論化がなされれば、この問題は解決させるのかもしれません。また、他の動機づけと競合する場合も、同様にどの動機づけが優先されるかを導き出すことができれば、解決できると思われます。

まとめ

  • 認知的斉合性理論の中に、認知的均衡理論と認知的不協和理論が含まれる
  • 認知的均衡理論(バランス理論)は登場人物2人と対象1つ
  • 認知的不協和理論は登場人物1人
  • 認知的不協和理論の方が包括的な理論
  • 認知的斉合性理論には問題点もある