【ヘルピングスキル】「言い換え」スキルはどう使う?強調することとは?

クライエントにどう反応するかで困ったことはりませんか?

ヘルピングスキルには言い換えというスキルがあります。このスキルを身につけることで、クライエントがより探求できるようなります。

言い換えは感情の反映は似ているところもありますが、実は大きく違うものです。

言い換えがどのようなものであるか、強調することが何かを知ることで、このスキルを効果的に使うことができるようになります。

言い換えについて、それぞれ見ていきましょう。

言い換えとは何か?

クライエントが話した内容を伝え返すとき、クライエントが話したことと一字一句同じことを言うことはないと思います。

そこで使われているのが言い換え(restatement)です。

『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』では、次のように言い換えを説明しています。

言い換え(restatement)は、クライエントが言った内容や意味を繰り返したり言い換えたりすることである。言い換えは、一般に語数が少なく類似したことばで、クライエントの陳述よりも具体的で明白であり、控えめな言い方(例:「おそらく、彼女はあなたがちょっと遅刻したとか何とか言ったのかな」)、あるいは単刀直入な言い方(例:「それで、彼女はあなたが遅刻だと言った」)となり、クライエントがたった今言ったことや以前のセッションや介入で言ったことに言及する。(p.117)

『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』

言い換えは、単にオウム返しするわけではなく、クライエントが話したことよりも、具体的で明白である必要があります。ぼやっとした感じでは、言い換えにはならないということです。

言い換えの前提には、傾聴があることがわかると思います。

自分が話したこととは違うことを伝え返されたら、理解してもらえなかったと感じます。プライベートなどで、「だから!」とイライラしながら何度も説明した経験は誰でもあるでしょう。

ヘルピングでクライエントにそれを体験させないように、言い換えスキルを使う前に、しっかりとした傾聴が必要になります。

傾聴が重要だと言われるのは、ここにも理由があります。カウンセリングや心理療法の基礎となるヘルピングの重要なスキルが、傾聴ということです。

傾聴については、「【ヘルピングスキル】かかわりと傾聴で大事な10のこと」に書いてあります。

言い換えの使い方

ヘルピングスキルの言い換えはどのように使えばいいのでしょうか?

言い換えスキルを使う際にポイントとなることがいくつかあります。ここでは3つのポイントを紹介します。

  • 考えを整理する
  • ヘルパーが積極的な役割を果たす
  • 要約する

それぞれについて見ていきましょう。

考えを整理する

ヘルパーによる言い換えは、クライエントにとって自分の考えを反映したものでもあります。1人ではぐるぐる回っていた思考を、他者から違う形で聞ける機会とも言えます。

ここが壁に話をしているのとの大きな違いになると思います。誰かに話せば、自分とは異なる視点から自分の考えを教えてもらえる機会が得られるからです。

『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。

クライエントが自分の問題にしばしば混乱したり、葛藤したり精神的にうちのめされていると感じているのあら、正確な言い換えを受け取ることにより、自分の関心事が他者にどのように感じられるのか自分で聞くことができる。クライエントが自分で話してきたことをあらためて聞くことは重要であり、それによって自分が考えていることを評価でき、忘れていたことを追加でき、話した内容が実際にそのとおりだと思えるかどうかについて考えられ、そしてより深いレベルで物事を考えられるのである。(p.118)

『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』

悩み事を誰かに相談しているとき、話しているうちに自分の考えが整理できたり、忘れていたことを思い出したりした経験はありませんか?

自分1人で考えているときはぐるぐる回っていた思考が、誰かに相談することで回らなくなり、1つの出口を見つけられたような経験です。

「本当はこうしたかったんだ」とか、「こうやればうまくいくじゃん」とか、特にアドバイスされることなく、問題解決に至るような経験です。

ずっと考えていても解決しなかったことが、誰かに話すだけであっという間に解決することもあると思います。これは考えを整理できた結果と言えるでしょう。

言い換えのポイントの1つは、考えを整理することです。そのことを意識した言い換えをすることが必要です。

ヘルパーが積極的な役割を果たす

ヘルピング・プロセスにおいて、ヘルパーは積極的な役割を果たすことが求められています。そこで、言い換えが役に立つということなのです。

言い換えスキルは、クライエントが話したことを言い換えて伝えるスキルなので、どちらかというと受動的なイメージがあるかもしれません。

実は、言い換えでヘルパーが積極的な役割を果たすことが求められているというのです。

これについて、『ヘルピング・スキル第2版』での説明は次のようなものです。

クライエントの陳述を言い換えることはずっと難しく、クライエントのメッセージの本質を言い換えることができるように、クライエントが話してきたことを、傾聴するだけではなく十分に理解するように努力することが必要とされる。(中略)実際にはヘルパーはクライエントの体験の本質をとらえようとしたり、それを言い直してクライエントに聞かせようとしたり、積極的に携わっているのである。(p.119)

『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』

言い換えのためには傾聴が大事だと書きましたが、その傾聴の中でクライエントの体験の本質をとらえようとする努力をする必要があるということです。

ただ聞くだけでは不十分で、しっかりと理解しようとすることが重要なのです。言い換えは探求段階で使われるスキルであるため、クライエントが十分に探求できるように、クライエントの体験の本質をとらえ、クライエントに伝え返すことが必要です。

言い換えスキルを使うときには、このような積極的な振る舞いがヘルパーには求められています。

要約する

クライエントが話したことを理解できているかどうかは、クライエントに聞いて確かめるしかありません。理解できていると思いこんでしまうと、クライエントの話していることとズレが生じてしまうことがあるからです。

そのため、ヘルパーは言い換えスキルの1つである「要約」を使います。

要約について、『ヘルピング・スキル第2版』から引用してみます。

ヘルパーは、クライエントに傾聴してきたことを伝えて安心させ、自分が聞いてきたことが正確かどうかを照合するために要約も使う。要約は特に、クライエントが特定の事柄について話し終えたときやセッションの終わりに、探求してきたことについてはこれでおしまいであるという感覚をクライエントにもたらす方法として有益となりうる。(p.119)

『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』

要約は、認知行動療法(CBT)でもよく使われます。「こういう理解でいいですか?」というように、きちんと理解できているかを確かめることが目的の1つとなっています。

クライエントが話した内容をヘルパーが理解できているかどうかは、クライエントに確かめるまでわかりません。要約は、それが正確かどうかを照合するために使います。

また、探求してきたあるテーマについて、「これで終わり」という感覚をクライエントが得られるようになるために、役に立つ方法でもあります。

どのように言い換えればいいのか?

『ヘルピング・スキル第2版』には、どのように言い換えるかについていくつか書かれていますが、ここでは最も重要と思われることを1つ紹介します。

まずは、『ヘルピング・スキル第2版』からの引用を見てみましょう。

ヘルパーはクライエントが話すあらゆることを言い直すよりも、彼らが話してきたことの本質をとらえようとする。特に、ヘルパーはクライエントが明らかにしてきたことの「最前線」(cutting edge)をとらえようとする。つまり、クライエントが最も疑問に思っていること、まだ探求されていないこと、あるいは完全には理解されていないことである。(p.120)

『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』

傾聴して、それをただ言い換えるのは、「言い換え」とは呼ばないことがわかります。

言い換えはクライエントの探求を促すことが目的なので、クライエントが探求したところを返してもあまり意味がないでしょう。

クライエントの探求が深まるように、その「最前線」をとらえることが、言い換えでは求められます。

言い換えを行うには、クライエントが言葉にしたことだけでなく、まだ言葉になっていないことを推測する力が求められると思います。

だからこその「言い換え」なのでしょう。クライエントが話したことをそのまま返すのではなく、言い換えて、別の何かをそこに含ませることが重要なのかもしれません。

このような言い換えですが、強調することはどのようなことなのでしょうか?

言い換えで強調すること

ヘルピングスキルでは、情動が重要とされています。そのため、言い換えも情動あるいは感情(フィーリング)をターゲットにしていると考えるかもしれませんが、そうではありません。

『ヘルピング・スキル第2版』には、次のように書かれています。

言い換えで協調することは、感情(フィーリング)や内的体験についてではなく、事実や内容についてである。

『ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法』

言い換えるのは事実や内容についてということです。感情や内的体験はヘルピングにおいても重要なことですが、言い換えスキルに関しては事実や内容を強調します。

もし感情を強調した方がいいと判断した場合は、「感情(フィーリング)の反映」というスキルを使用します。

「感情(フィーリング)の反映」については、「【ヘルピングスキル】「感情の反映」のポイント!クライエントの感情の情報源とは?」に書いてあります。

まとめ

ヘルピングスキルにおける言い換えは、クライエントが明らかにしてきたことの最前線をとらえる必要があるという難しいものです。

言い換えの使い方は3つあります。

使い方
  • 考えを整理する
  • ヘルパーが積極的な役割を果たす
  • 要約する

言い換えのポイントは次の通りです。

ポイント
  • クライエントが明らかにしてきたことの最前線をとらえるようにする
  • 事実や内容を強調する

『ヘルピング・スキル第2版』には、ここで紹介したことの他に、ヘルパーが経験する問題、有益なヒント、実践演習、グループ実習などもあります。

ヘルピング・スキル第2版-探求・洞察・行動のためのこころの援助法